雨の多い6月

1/1
前へ
/9ページ
次へ

雨の多い6月

「高倉ァ! あんたまた傘まちがえてる!  それ、あたしんだから!」  昇降口を出ようとしたとき、クラスの女子である早坂が怒声を飛ばしてきた。 「あれ? またか。お前もいいかげん買い替えろよ。似てるからまちがえるだろ。」  空色のギンガムチェックの傘は、僕の好みだ。 「それはこっちのセリフ! もう小学生じゃないんだから、傘くらいちゃんと見分けなさいよ! あんたのは……あれ? ないじゃん!」 「これを置き傘してるつもりだったから、持ってきてない。」 「人の傘を自分の置き傘って。どこまで図々しいのよ!」  僕はハハハと笑い、言った。 「入れよ。」 「え?」 「まちがえたお詫びに送るから。」 「う、うん。」  早坂はなぜか、一瞬勢いを失った。  そして靴を履き替えて傘に入ってくると、 「ってか、これ、あたしの傘だし!」  と、僕をにらんだ。 「持ってやってんだから許せよ。」 「まあね。姫気分もわるくないね。」  雨のたびにそんな感じだった。  会話の内容を知ってか知らずか、僕ら二人は付き合っている、という噂も立っていた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加