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雨の多い6月
「高倉ァ! あんたまた傘まちがえてる!
それ、あたしんだから!」
昇降口を出ようとしたとき、クラスの女子である早坂が怒声を飛ばしてきた。
「あれ? またか。お前もいいかげん買い替えろよ。似てるからまちがえるだろ。」
空色のギンガムチェックの傘は、僕の好みだ。
「それはこっちのセリフ! もう小学生じゃないんだから、傘くらいちゃんと見分けなさいよ! あんたのは……あれ? ないじゃん!」
「これを置き傘してるつもりだったから、持ってきてない。」
「人の傘を自分の置き傘って。どこまで図々しいのよ!」
僕はハハハと笑い、言った。
「入れよ。」
「え?」
「まちがえたお詫びに送るから。」
「う、うん。」
早坂はなぜか、一瞬勢いを失った。
そして靴を履き替えて傘に入ってくると、
「ってか、これ、あたしの傘だし!」
と、僕をにらんだ。
「持ってやってんだから許せよ。」
「まあね。姫気分もわるくないね。」
雨のたびにそんな感じだった。
会話の内容を知ってか知らずか、僕ら二人は付き合っている、という噂も立っていた。
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