雨の日のガードマン

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雨の日のガードマン

 そんなある日のことだった。  いつものように相合い傘で早坂を家まで送ったとき、早坂のお母さんが言った。 「いつもありがとうね、高倉くん。」 「いえ、傘のお礼ですから。」 「そうだよ、お母さん。こいつがあたしの傘を勝手に私物化してるから、その対価として送らせてるだけだから。」  お母さんは、 「口の減らない子でごめんなさいね。」 と僕に謝った。 「いえ、元気がよくていいと思います。」  お母さんは、鞄を拭いている早坂を肘で小突いて「ほらっ、『いいと思います』だって!」と小声で言った。 「余計なこと言わなくていい!」  早坂はすかさずと言った感じでお母さんを止めた。 「じゃあ、ありがとね高倉。気をつけて帰って。」  早坂は笑顔で僕を退去させた。  つれない女だ。 「あ、傘はちゃんといつも通り学校の傘立てに返しておいてね。」 「わかってる。」  早坂の家を後にした僕は、にんまりした。
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