買い替えられた傘

1/2
前へ
/9ページ
次へ

買い替えられた傘

 次の日の昇降口。  僕は傘立ての前でため息をついた。  空色のギンガムチェックの傘がなかった。  代わりに新しい傘が1本増えていた。  真っ赤な傘。前のとは全然ちがう、まちがえようのない傘だ。 「やっぱりね。」  こうなると思ってた。  僕はふり出した夕立を見上げ、鞄を頭にのせて走り出そうとした。  そのときだった。 「高倉!」  聞き慣れた声に呼び止められて、僕はふり向いた。早坂がいた。 「その赤いの、あたしの傘だから。」 「………わかってる。だから、まちがえなかっただろ。」 「そうじゃなくて! 傘のデザインが変わったくらいで、ガードマン辞めるつもり?」  僕はため息をついた。  わかってないな、女って。  内心そう思いながら、僕は赤い傘を手に取って、 「送りますよ、お嬢様。」 と、なるべくおどけてみせた。  早坂は満足そうに笑って、傘に入ってきた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加