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買い替えられた傘
次の日の昇降口。
僕は傘立ての前でため息をついた。
空色のギンガムチェックの傘がなかった。
代わりに新しい傘が1本増えていた。
真っ赤な傘。前のとは全然ちがう、まちがえようのない傘だ。
「やっぱりね。」
こうなると思ってた。
僕はふり出した夕立を見上げ、鞄を頭にのせて走り出そうとした。
そのときだった。
「高倉!」
聞き慣れた声に呼び止められて、僕はふり向いた。早坂がいた。
「その赤いの、あたしの傘だから。」
「………わかってる。だから、まちがえなかっただろ。」
「そうじゃなくて! 傘のデザインが変わったくらいで、ガードマン辞めるつもり?」
僕はため息をついた。
わかってないな、女って。
内心そう思いながら、僕は赤い傘を手に取って、
「送りますよ、お嬢様。」
と、なるべくおどけてみせた。
早坂は満足そうに笑って、傘に入ってきた。
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