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傘のなかで、僕は無口だった。
早坂には僕のそんな態度がふしぎだったようで、盛り上げるようにあれこれ話しかけてきた。
そしてその後、しびれをきらしたように言った。
「なんでしゃべらないの? もしかして………ってか、やっぱり昨日のこと気にしてる?」
気にするだろ、普通。
ってか、お前はなんで普段通りなんだよ。
僕は少々ムッとした。
早坂はしばらく僕の横顔を見ていたが、前に向き直って言った。
「昨日のことなら、あたし、怒ってないよ。
パニクったけど………嬉しかった。」
その一言に、僕はブチ切れた。
「嬉しかったってなんだよ! 僕らまだ中学生だぞ! いろいろちゃんと考えろよ、馬鹿女!」
僕は傘を早坂の手に押しつけて、飛び出した。
傘を押しつけたとき、手が触れた。
女の手って、柔らかくてしっとりしてて、それでいてベタついてなくて……。
僕はクルリと早坂をふり向いて叫んだ。
「バカヤロー!!」
早坂はただ立ち尽くしていた。
僕は走り去った。
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