買い替えられた傘

2/2
前へ
/9ページ
次へ
 傘のなかで、僕は無口だった。  早坂には僕のそんな態度がふしぎだったようで、盛り上げるようにあれこれ話しかけてきた。  そしてその後、しびれをきらしたように言った。 「なんでしゃべらないの? もしかして………ってか、やっぱり昨日のこと気にしてる?」  気にするだろ、普通。  ってか、お前はなんで普段通りなんだよ。  僕は少々ムッとした。  早坂はしばらく僕の横顔を見ていたが、前に向き直って言った。 「昨日のことなら、あたし、怒ってないよ。  パニクったけど………嬉しかった。」  その一言に、僕はブチ切れた。 「嬉しかったってなんだよ! 僕らまだ中学生だぞ! いろいろちゃんと考えろよ、馬鹿女!」  僕は傘を早坂の手に押しつけて、飛び出した。  傘を押しつけたとき、手が触れた。  女の手って、柔らかくてしっとりしてて、それでいてベタついてなくて……。  僕はクルリと早坂をふり向いて叫んだ。 「バカヤロー!!」  早坂はただ立ち尽くしていた。  僕は走り去った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加