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2 ガヤガヤとした喧騒。 厨房とホールの怒号。 酔っ払いとシラフの奇妙なやりとり。 俺の職場は大手チェーン店の有名な居酒屋だ。 俺はその中でも本社からの社員で、ある程度の地域内の範囲を切り盛りするエリアマネージャーみたいなものを担っている。 定期的に本社に現場の状況をレポートし、売り上げの底上げに尽力する。 たまの本社勤務や会議出席を除けば、大してバイトと変わりないように思うが、このポジションを嫌う社員は多く、同期は皆つまらないデスクワークに追われている。 確かに昼夜逆転生活や、年齢が離れていく新人アルバイトを手懐けるのは並大抵の労力ではなかったが、俺みたいに良い加減な大人には丁度いい仕事だった。 流行りの音楽が鳴る中、入り口から黒づくめの男が入ってきた。 目立たないようにしてる分、余計に目立っているように見える。 俺はその人物に十分過ぎる認識があり、駆け寄った。 『燕さん!どうしたんですか!』 「よぉ〜、一杯やりにきた。」 『どうぞ、カウンター空いてます。』 「いや、奥の隅の席で良い。一杯付き合えよ」 『…俺、仕事中ですよ』 上目遣いに怪訝な表情を作る。 「見りゃ分かるよ…堅い事言うなって…」 燕さんは全国的にも有名な龍堂会ってヤクザのお抱え闇医者だ。 もちろん彼は素性を隠して生きている。 そして、今、俺と暮らしている日高雪乃の主治医でもある。 奥の席を案内して、俺は前の椅子に腰を下ろした。 『で?なんの話ですか?』 俺は燕さんに頬杖をついてみせる。 「随分だなぁ、一応客だぜ?」 『またそんなこと言って』 「お見通しとあっちゃ、逸らしても仕方ないな」 『忙しいんですよ。もう忘年会シーズンだ…予約勝ち取ってかないとこの業界も厳しいんでね』 燕さんは少し目にかかる栗色の髪を耳にかけため息をついた。 「雪乃ちゃんは?最近薬の量を減らして欲しいって言ってきてさ、気になってる。」 俺は騒がしい店内にボンヤリ視線を飛ばした。 『変わりませんよ…庵司の亡霊に取り憑かれてる』 「…お前さ」 『なんですか?』 「いつまでそんな髪の色してるつもりだ?」 燕さんの言葉に目を伏せる。 『さぁ…』 「さぁって…そろそろ少しずつ環境を変化させないと…雪乃ちゃんが」 『あの…話って、そんなことじゃないですよね?』 俺は冷えた瓶ビールを燕さんのグラスに傾けた。燕さんが慌てた調子でグラスに手を添える。 「庵司の…遺体はないままだってのは言ったよな…」 『えぇ…まさか…見つかったんですか?』 燕さんは顔を左右に振った。 「まさか…ヤクザなんて髪一本残さず消す時は徹底だ…焼かれたか、今頃、鮫の餌にでもなってるさ…ただ、親父も多少は情が合ったんだろうな、ガキの頃に拾ったんだから…そのせいか空っぽの墓なんぞ建てやがった…」 『空…ですか?』 眉根を寄せた俺に燕さんは、そう怖い顔すんなよって苦笑いする。 「正確には……左手の骨だけ…」 『左手?』 「手首から先っぽだけ持ち帰って焼いたんだとよ…墓に入れるためには十分だからな…アイツ骨は細かったのかほとんど粉だったけど…」 『燕さん』 俺が真剣な目で睨みつけると、燕さんはビールをグイッと煽りトンとテーブルにグラスを置いた。 それから大きな溜息をついて、ジャケットの内ポケットからキラリと光るものを摘んで取り出し、テーブルの上にソレをそっと置いた。
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