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『ただいまぁ〜』
玄関を開けると中から暖かい空気が流れてくる。
パタパタと足音をさせて雪乃が出迎えてくれた。
まだ時間にして朝の6時を回った頃だ。
空もようやく白んでお目覚めだっていうのに、雪乃はいつも起きて俺を迎える。
「おかえり〜、寒かっただろ?コーヒー淹れるよ」
そう言って羽織っているカーディガンを翻す。
前よりも痩せた細い手首を掴んで引き寄せた。
胸の中にギュウッと引き入れて首筋に鼻先をよせ、雪乃の香りを吸い込む。
雪乃がクスッと笑って
「圭介さん…冬の匂いがする」
と囁いた。
可愛い…
小動物のような丸い瞳で見上げてくるから、ゆっくり頬に手を添えて、ふんわりと唇を塞いだ。
閉じた目を開きながら離れると、胸元にしがみついた雪乃が恥ずかしそうに笑った。
「コーヒー…淹れるから…手洗っておいで」
『…うん…ありがと』
洗面台で手を洗いながら鏡を見つめた…
ブリーチのし過ぎで痛み切った髪がふわふわと揺れる。
白いブロンド。
雪乃は、いつになったら…俺を見てくれるだろうか。
ザァーッと音を立てる水を掬い、軽く顔を洗った。
庵司で居る。
俺が決めた事だ。
俺は、雪乃の為に死なない。
俺は
雪乃の為に
生きるんだ。
ポタポタと顎先から水滴の滴る顔を見つめ、下唇を噛み締めた。
ポケットにリングケースを入れたままハンガーラックにコートをかける。
リビングに入ると、暖かい朝食が湯気をあげていた。
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