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6 俺と雪乃の生活リズムは真逆だ。 夜、仕事に出て、朝方に戻る俺と、朝、仕事に出て夜に帰る雪乃。 重なり合うのは休みが被った日と、お互いが交代で家を出るまでの時間。 雪乃に仕事を辞めさせる事も出来たけど、それはただ雪乃自身から普通に生きる術を奪う気がして我慢した。 本当はもっと甘やかして、俺なしでは生きられないようにしてしまいたい。 それをしないのは、雪乃から庵司を忘れさせる雑音が一つでも多い方がいいからだった。 家にこもっていたら、アイツを思い出す時間は膨大なものになる。 ズルズルと闇の中に引き込まれてしまいかねない。 雪乃に普通のサラリーマンを続けさせているのは…俺のエゴに過ぎなかった。 ダイニングテーブルに並んだ朝食を二人で食べる。 コーヒーを口に含んだら、向かいの雪乃が微笑んだ。 「今日は無口だね。いつもと雰囲気違う。仕事で何かあった?」 首を傾げる雪乃にドキリと心臓が跳ねた。 燕さんが来た事は、話しても良かったのに、俺はなんとなく本題を探られるのが怖くて話を逸らしてしまった。 『そう?特に何もなかったよ。年末に近づくと、忘年会の団体が増えて忙しくなるからね。ちょっと疲れたのかな』 「そっかぁ…もうそんな時期なんだね…」 雪乃は窓の外に目をやる。 外気との温度差で窓ガラスが結露して幾筋かの水滴が流れた。 「寒そうだね…あんなに暑かったのに」 あ…ダメだ 庵司に 捕まる。 俺は席を立ち、雪乃の側に行くと薄いブルーのネクタイの歪みを直した。 「ぁ…りがと」 『うん…そろそろ時間だよ…』 雪乃は掛け時計に目をやり、慌てて立ち上がった。 「ほんとだ!急がなきゃ!」 ハンガーラックからコートを掴み、カバンを手に玄関へ急ぐ雪乃の後を追った。 『行ってらっしゃい。』 「うん……」 『どうした?』 俯く雪乃の顔を覗き込むと、頬に手がかかりキスされた。 「圭介さん、いつもしてくれるのに…しないから」 俺はびっくりしてキョトンとしてから呟いた。 『ヤバい…勃ったかも』 「はぁ?!もう!何言ってんだよっ!行ってきますっ!!」 『行ってらっしゃ〜い…』 ヘラッと笑いかけて手を振る。 バタンと玄関が閉まって、俺はぺたんとへたり込んでしまった。 グシャッと頭を抱え込む。 『ハハ…参るなぁ〜……俺が行く時は泣くくせに…はぁ……本当…悪い子だ』 イレギュラーな事態に弱くなっているのはお互い様のようだった。 毎日ある事は毎日ないと落ち着かない。 毎日ない事が起こると、互いに酷く動揺して、心をザワザワさせる。 知らぬ間に涙腺が緩んで、どうしょうもない愛おしさに溺れそうになる。 庵司、あんたが置いていった物は…こんなにも俺を 苦しくさせる…。
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