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空き箱にはカラフルなボタンが数多くあった。
その中には私もいる。
美宇はおままごとが大好き。
ボタンを家族に見立てて、遊ぶのが彼女の日課だ。
私も美宇と遊ぶのは楽しかった。
昨日はママ役だった。一昨日は犬だった。
今日は一体、どんな役をもらえるのだろう。
わくわくしながら、そのときを待つ。この時間も私は好きだ。
赤いボタンをつまみ上げる。
あなたはお父さんね、と言われている。
もっと喜べばいいのに。でも仕方ない。
赤いボタンには私みたいな意識がないんだもの。
赤いボタンだけではない。この中で意識があるのは私だけだ。
「あなたはーー」
そう言って美宇は私をつまむ。とうとう私の番がきた。
「あなたはボッチャンね。ボタンのボッチャン」
ボッチャン?こうして意識を持ってから、考える力がついた。
だけど〝ボッチャン〟なんて言葉は知らない。
「美宇の初めてのお友達だよ」
ボッチャン。友達。私は反芻する。
もしかして、ボッチャンって名前だったりする?
美宇みたいに名前がついたの?
どうしよう。嬉しすぎておかしくなりそう。
この気持ちをどうやって表現しよう。
私ーーううん。これからは、自分のことをボッチャンと呼ぼう。
ボッチャンに美宇のような顔があれば、きっと満面の笑みを浮かべていることだろう。
名前と友達という存在意義をもらった。
それはとても大きな役だった。
ただ在っただけのボッチャンは、美宇の言葉一つで不確かな存在から確かな存在へとかわった。
そんな彼女の一番の友達であろうと決意した。
それぐらいに嬉しかったから。
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