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小さく人化けしたボクらよりも小さなてるを二汰が上がり框に抱き合げる。やめてーと笑うてるにボクらはのしかかってバタンと仲良く廊下に仰向けになった。
「じゃまよぅ。おっけてまぁ。」
イイニオイの赤ちゃんをカンガルー抱っこした女の人が、長い髪を耳にかけ直し、覗き込んで、てるとボクらににこにこ笑う。廊下の奥からキシリと板張りの軋む音がして、玄関で大渋滞なみんながボクらからそっちに視線をあげた。
「はるちゃん!」
首の片側に複雑に編んだ茶髪に太めの眉毛を晒したぱっつん前髪の白皙の丸顔。ぺちゃんこ鼻の銀縁丸眼鏡。白地にグレーの太いラインの入ったぶかぶかシャツにテロテロの黒いサロペットを着て、集めたみんなの視線に眼鏡の奥のパチリと丸い瞳を細め赤い唇が弧を描く。
「、、、まみ、まみちゃん!」
「、、、えっこのまみか。」
「、、まみのわらしは三つ子だっだべか。」
わらしっこ、はやいげ、と提灯を持つオジサンがボクらの横をどかどか過ぎて、てるがよいしょって立ち上がってボクらに行こってニパッて手を伸ばしてくれた。
「うん!」
「行く!」
「てる、なにしてあそぼう!」
「まずはおまえりだよ!」
お墓から持ち帰った提灯のろうそくの火を取り出した四角い顔のオジサンが、カラフルな玩具の鬼灯とレンコンが賑やかにぶら下がる仏壇のろうそくに火を移して、チーンと凜を叩いた。みんな後ろに並んで正座して、ボクらもてると一緒に正座する。仏壇のろうそくの火がちょっと揺れて、ただいまぁ、ただいまぁ、って仏間の空気に溶けてった。
「それでね、おじちゃん、この子ら、二、三日泊めてやって。はるちゃん、てるちゃんと一緒に面倒みてもらいたいのよ。」
私は仕事でもう東京に戻るわ、いいでしょう。とボクらの知らない女は四角い顔のオジサンをヒタリと見つめ、わがった、と誓約させた。てるとご馳走をたくさん食べて、おっきなお風呂でクラゲをパパから教わって、てると色違いの恐竜のパジャマでくっついて畳にぎゅうぎゅうほっぺをくっつけてるところに、わかりやすく入ってきた女が優しそうに笑う顔で手招きした。ちぇっ。ほっぺに畳のあとつけ選手権の最中だったのに。三千が、ちぇーっ、ボクの負けでいいや、って近づいていく。ボクらはてると勝負を続ける。
「お前ムジナの匂いがする。」
「はい。ムジナでございます。」
「はるちゃんとオジサンとみんなに何したの。ワルイコト?噛むぞ。」
ぶるぶるとムジナの女は震え、歯をガチガチ鳴らし鳴らし、そんなことはございませんと手のひらを合わせ指先をすりあわせ喘ぐ。ほんのいっときの化かしです。貴方様はこの家に縁の者と思わせろと御大将が命じたのでございます。
「御大将?ムジナのこと?ならお前、」
ぶるぶる震え眼鏡がずり下がったムジナ女は一際大きくびくりと肩を震わせた。
「イイヤツだな。」
「はいっ!イイヤツでございますぅっ!!」
忙しなくすりあわせていた両手の指をがっちり組んで胸の前で祈るように激しく首を上下させ、お役に立ちますからぁ、とえぐえぐ喘いだ。ちょっとうるさい。
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