23人が本棚に入れています
本棚に追加
夏休みのご馳走
蚊帳のだらんとした天井がハンモックみたい。飛び込んだらポーンって跳ねるかな。お日様の匂いのお布団でボクら団子になって目が覚めたんだ。もぞもぞ動くてるに、ボクらはにんまりする。起きたかな。二汰がうつぶせで寝転がったまま頬杖ついて、てるを眺める。
「おはよう?」
「おはよー、てる!」
「おきた!あそぼう!」
「お、や、おきない。」
「ねる?」
「ねるー!」
「ボクも寝る!」
お日様はすっかり朝を連れて来ちゃってた。ジーワジーワと蝉の合唱も白熱して、きっと空は真っ青だ。わくわくするでっかい入道雲も待ち構えてる。黄泉の空は澄み渡る薄青ですじ雲がたなびいて流れてる。見渡す限りの花畑は雨で滲んだ絵の具のよう。穏やかで眠くなっちゃう。でも此処の太陽はヒリヒリと熱を持つ暑さを連れてきて、目に痛いほどの青空と草木の彩光に満たされている。ヒンヤリする暗がりにずっと隠れていたくなる。このまま寝てても楽しいね。
「てっちゃーん、ばあちゃんが畑ばメロンとりいくよぅ。置いてかれちゃうわよー。」
「起きた!」
「ボクも起きた!」
「畑行く!」
「てる、行こ!」
一緒にくぐる蚊帳網にてるが絡まるから一結も絡まってそれに二汰が躓く。うきゃぁっててるが笑うから蚊帳を潜ってた三千が、こっちーって引っ張って、ボクらはさらに絡まって愉しくなって、ぐいぐい引っ張ったりもんどり打ってもっと絡まって遊んじゃう。もう引っ張れないくらいびょーんと伸びる蚊帳にほふくぜんしーんって掛け声かけて、部屋の外の縁側に進んで。ギシッとパチンと弾ける音で、ボクらは軽くなって蚊帳と縁側に脱出したんだ。
「みぃくん!すげーじゃん!!ひいくんぼくら罠から逃げた!な、ふうくん!な!」
「絡まってるよ!」
「でも脱出したんじゃん!な、みぃくん!」
「そっか!」
「うん!」
天井から落ちた黄緑の蚊帳をずるずる引っ張って縁側でさくせんせいこう!わーいっ!て両手でハイタッチ、は網が絡んで出来なくて、それが楽しくって、きゃらきゃら騒ぐてるがキラキラしてるのが嬉しくって、ボクらもケラケラ笑った。わりぃわらしっこだ、なまはげさまがくるべさ、と、てるとよく似た四角顔のオジサンと、後ろ半分が小花柄ひらひらタレのついた麦わら帽子のオバサンが笑いすぎて絡まりすぎて動けないぼくらを蚊帳の罠から助けてくれた。
「ばあちゃん、おれの麦わら。」
「ばあちゃん。」
「ばあちゃん。」
「ボクらも麦わら!」
「車さ入ってる。いぐべ。」
「じいちゃん、おれトラック乗る!」
「じいちゃん。」
「じいちゃん。」
「だめだ。」
だめだって四角顔のオジサンは、いーって歯を見せて怖いかおしたけど、ぼくらはパパとあんさんにしっかり片手を握られてうちの裏のガタガタ農道をでこぼこトラックの荷台にゆさゆさ揺れて畑に行って、暑い地面に並んで温かいメロンをしゃくしゃく食べたんだ。おっきなトマトもキュウリも、トウモロコシは抱っこしてもらってパキンって折った。イイニオイがした。トマト食べて!っててるがにっかり笑うからなんだか胸がいっぱいで、此処も滲んだ景色になった。
「お腹いっぱいだ。」
一結がへにょっと笑う。ぼくらは情けない顔を見合わせて、お腹いっぱい、ってちょっと泣いた。
最初のコメントを投稿しよう!