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シロクマは檻に入りたい
「おれについてきて!」
「てるくん、みんなで手を繋いで行こうか。」
パパが三千の手を取り、さ、手を繋ごう、って膝を曲げてボクらの顔を覗きこむ。ざぱーんと波飛沫があがってカモメがたくさん舞い上がって舞い降りて、潮の匂いと雲の匂いがするここは水族館。昨日食べた魚も飼われてる。ひんやり薄暗くてゆらゆらする水槽の波に外の光が入ってキラキラして、てるのきょろんとまんまるな目もキラキラして、すげー!ひぃくんはどれがすき?おれはアオザメ!ってニパッて笑った。ボクらはキラキラなてるがすき。食べる魚から食べない魚の見あげる水槽をまわって、明るい外でボクらは憎い真っ白毛皮を見つけた。
「シロクマ!!」
「しろくま。」
「くま。」
「くま。」
「うん。北極熊だね。寒い北極の雪山に居るから白いんだよ。日本は暑いでしょ。だから氷の浮かんだプールなんだね。」
アクリルガラスの向こうで水を蹴って上がったり氷のボールを捕まえて潜ったりを繰り返すシロクマを睨む二汰を、パパは、ちょっと怖そうかな?と頭を撫でた。
「こっちに出て来ない?」
パパは目もとを緩めて二汰を撫でてた手で一結も撫でる。
「うん。出て来ないよ。」
「ふぅん。」
「おれシロクマカッコイイからすき!!」
シロクマは真っ白毛皮のアイツじゃないけど気に食わない。出て来たら噛めたのに。ボクらと水中で目が合ったシロクマはゴボゴボッと息を吹き出すと両手で水をかいて一気に浮上してざぶざぶとプールから這い上がった。四つん這いの背中を向けて遊具の奥まで走ると檻の格子窓をがしゃがしゃ叩く。
「クマ!オイデ!」
「クマ!デテオイデ!」
「もっかいこないね。」
「ははっ、みんな北極熊が大好きだね。たくさん泳いだからお昼寝したいのかもね。」
行こうか、とパパが繋いだ手を揺らした。
「またぬいぐるみ買ってきちゃったのね。」
おかえり、とはるちゃんがボクらを迎える。
「これな!ゆきにおみあげ、4人でえらんだ!な、ふぅくん!」
「うん!おみやげ!」
「なまこ!」
「ピンクでかわいいなまこ!」
「なまこじゃないよ!ウミウシだよ。な、ひぃくん。」
「うん。アオウミウシのピンク。」
「あらぁ。ゆき喜ぶわぁ。てっちゃんは何買ってもらったのかな。」
「ないしょ!!な、みぃくん!」
両手をぱっと開いてはるちゃんに、なんにもないよー、とてるはにっかり笑う。三千のパーカーのフードからはみ出してる真っ白なぬいぐるみのぺちゃんこ尻尾のついたお尻とピンクの肉球の後ろ足が見えてるはるちゃんは、あらそぅ、とパパに目配せして笑った。
お土産売り場で、てるはシロクマのぬいぐるみに釘付けだった。シロクマを二匹も抱えてご満悦だった。やっぱりシロクマ噛んじゃえばよかったね。
「ふぅくん達もお土産選んで。1個ずつ好きなもの持ってきてくれるかい。」シロクマでもいいよ、ってパパは笑うけどシロクマはぜったいやだ。てると同じがいいけどシロクマはやだ。
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