シロクマは檻に入りたい

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「うわ、懐かしい。」 パパが手にした2頭身の大人の手のひらサイズぬいぐるみは怪獣。頭が3つの羽根のある仁王立ちドラゴンな薄茶色の怪獣。 「おれ知ってる。キングギドラだ。」 「そうそう。てるくん知ってたね。Eテレのちび怪獣。パパはさ、従兄弟と3人でジャンパー羽織ってよく真似したんだ。エレキングの次に好きだったなぁ。」 「おれもすき。ひぃくんたちみたいじゃん!カッコイイじゃん。な、ふぅくん、みぃくん!おれは真っ黒がいい!でな、走ると速いんだよ!」 そんな怪獣いたかな、メカかな、従兄弟は詳しかったんだどなぁ、ってパパは3つ頭のぬいぐるみをワゴンに戻して、ゆきには羽化前のモスラにしよっか?ってイモムシのぬいぐるみを三千の頭にポンと乗っけた。一結がてるにぎゅっと抱きついて二汰がパパに聞こえないようにこそっと耳打ちする。 「てる、真っ黒のボクら知ってるの。」 「てる、ボクら3つ頭なの覚えてたの。」「おれ知ってるよ。ひいくんとふうくんとみぃくんはぢこくのばんけんのおしごとおねがいしたもん。」 あったりまえじゃん、おれらトモダチじゃん!ってにっかり笑った。でもなー、ぢこくのばんけんはねんぢゅうむぎゅうなんじゃん。ひいくんたちブラックじゃん。ごめんね。おれ知らなかった。 「おれ、しんばいだよ。」 「ブラック。」 「しんぱい。」 「ブラックだとあそべないんだって。てんきんでパパがママに言ってな、おれにもひっこししていいかい、って言った。おれな、いいよって言ったの。だからパパ夏休みだよ。」 あしたはパパだけおしごとだからかわうそだよね、って、置いてかれて寂しくなるのを知ってる可哀想なてるはしょんぼりする。でもね、てる。置いてくパパも寂しいよ。だってボクらはサミシイ。ボクらもあした帰るんだ。 「ばんけんはいっぱいお休みあるしごと?」 「地獄の釜がしまると夏休み。」 「地獄の釜がしまると休みだよ。」 「ボクらいっぱい働いてる。約束の(番犬)してる。てるも来たらいいのに。」 「ばんけんカッコイイよね!ワルモノとおさないんでしょ。おれ、せいぎのケルベロスすきだよ。カッコイイじゃん!」 「シロクマよりカッコイイ?」 「アオザメよりカッコイイ?」 「キングギドラよりカッコイイ?」 「ぜんぶならべないと、わかんない。」 屈託無くニパッて笑って、決まったかな?と腕くらい太いイモムシのぬいぐるみをぶら下げるパパに、てるはシロクマを押し付けた。ボクらは腑に落ちない。並ばないと選んで貰えないなんて知らなかった。シロクマは檻の中だしアオザメは水の中なのにぬいぐるみが並んでるから選ばれちゃうんだ。3つ頭の怪獣もイモムシ怪獣も冥府にいるのかな。なんかズルい。ボクらは並んでない。 「ひぃくん達、決まったかな。」 「パパ、ボクら、お酒のお土産頼まれたの。どこで買うの?」 「お酒?うーん、帰ったらおじいちゃんに聞いてみようか。後は何か無い?遠慮しないで。シロクマにするかい?モスラがいい?」 「パパ、イモムシ怪獣よくない。」 「パパ、シロクマもよくない。」 「ボクら、ぬいぐるみいらないよ。」 パパは、そうかい?って目尻を緩めてはるちゃんみたいにふうわり微笑んで、じゃぁモスラじゃないやつ一緒に選ぼうか、って三千の手を繋いだんだ。
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