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此処は冥府の裏口
岩山の裂け目のここから奥は人間が2人並んで通れるくらいの道になってて底まで下ってる。んで、ボクらはここでとおせんぼう。寝そべってうとうとしてても大きいから超えられない。通る前に噛んじゃうし。
ひまだね。
暇だね。
でも門だからたまに誰か来るかも。
ふわぁ、とあくび。
ふわぁ、とあくび。
ふわぁぁぁ。なんであくびってうつるんだろ。
かわりばんこにまたお昼寝しようよ。
黒光りする硬質毛の背をゴツゴツの岩山に向けてどっかりしっかり道をふさいで前脚を軽く組んで顎を乗せた。見渡すのはずっと続く花畑。それと遥か高い清んだ青空。この空と何処かで繋がってる下界。ボクらは此処から駆け出したくなる。
ボクらを拾ったあの子。
飼い主だって教えて貰った。
ラッキーだったね。
賢しいカラスに揶揄われるのもやだ。
狡いムジナに囓られてもやだ。
乱暴オロチの遊び相手はぜったいやだ。
ボクらは顔を見合わせて頷く。
飼い主が優しい人間の子でよかったね。
『お前は鬼に拾われて貢ぎ物になる。』
そう告げて、真っ白毛皮は目が開いたばかりのボクらを巣穴からぽーんと放り出した。一緒に生まれた兄妹達はみんな真っ白毛皮だった。ボクらだけ真っ黒だった。
かみ殺されなかっただけましだよ。
ボクがアイツかみ殺してやる。
お腹空いた。
お腹空いたって鼻を鳴らしてくぅくぅ鳴いたらあの子は、食べ物をくれた。カラフルな花をフルフル咲かせてカラフルな実をポンポン成らせて、あげるよ!って笑った。ぼくらより裂けてないけどカパッと開けた大きな口で笑う得意気な顔は、ボクらを見て逃げた小鬼よりずっとずっと強そうだったんだ。
んまい。
うんまーい。
ボクもー。
ムシャムシャ夢中で食べたハジメテのナニカはカラフルな花とイロトリドリな実。だから。
ボクらはベジタリアンな三頭閽獣。昨日も今日も明日もその先もあの子の迎えを待ちながら此処で門番をしてるんだ。
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