恋のアドバイスなんてしたくありませんが……何か?

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 カレンがそこに触れるなと顔を背けても、アルビスの追及は止まらない。 「何があったんだ?誰にやられたんだ?……それとも自分でか?」  うるさいし、しつこい。  カレンの不快指数が一気に上がる。心配そうにしているくせに「辛いなら欠席するか?」と訊かないところが余計に苛立つ。 「頼む、カレン。答えてくれ」  アルビスに切実な声で訴えられ、カレンは視線を彼に向けてギロリと睨む。 (もう、どうだっていいじゃん!)  先日見かけたアルビスと愛人たちのじゃれ合いを思い出して、しらじらしい演技を続ける彼を無視してカレンは歩き出す。 「邪魔、どいて」 「カレン……!」  聖皇帝と聖皇后が一触即発の状態になり、側近のヴァーリとシダナが割って入ろうとする。しかし、二人より早く口を開く者がいた。 「……陛下っ、発言の許可をお願いします!」  これまでずっと沈黙していたダミアンが急に張りのある声を上げ、カレン驚き足を止める。アルビスは僅かに顎を引いて発言の許可を出す。 「恐れ入ります。では、僭越ながら聖皇后の怪我につきましてご報告します」 「ちょっ」  まさか先日の孤児院での一件をチクるのかと、カレンはぎょっとする。しかし、ダミアンの口は止まらない。 「カレン様は、寝起きの際に……て、転倒されたのでございますっ」 「そうなのか?カレン」  ダミアンが発言を終えるのとほぼ同時にアルビスから問われ、カレンは言葉に詰まった。アルビスはなんともいえない目で見つめてくる。  しかも3歩離れた場所からシダナとヴァーリにまでそんな目で見られてしまい、カレンは言葉につまる。 「えっと……それは……」  わかっている。本来ならここは即座に頷くべきところだ。  これから先も自由に城外に出るための言い訳をダミアンが代弁してくれのだ。これに乗っからないなど愚の骨頂である。  そう頭の中では理解しているが、残念な子供を見るような視線を向けられると、反発心が生まれてしまう。 「い、いいでしょ、別に……転んだって」  カレンの不貞腐れた表情とその言葉はとても信憑性があり、アルビスは納得せざるを得なかった。  でもまだ何か言いたそうにカレンを見つめる。 「なに?」 「……悪いが手を出してもらえるか?決まりなんだ」  おずおずと差し伸べられたアルビスの手を、カレンが素直に取るわけがない。 「決め事なら、皇帝のあんたが今から無しのルールにすればいいだけでしょ?」  表情を変えることなく言い捨て会場に向かい始めたカレンに、アルビスは「なるほどな」と頷くと歩調を速め衛兵に扉を開けるよう命じた。  衛兵二人がかりで開けられた豪奢な扉の奥には、緞帳のような厚地のカーテンが幾つもある。  この出入り口は皇帝しか使用できないもので、会場を見下ろす上座と直結した造りになっている。   アルビスはカレンの前に立ち、布を持ち上げて歩きやすいよう道を作る。でも、カレンは見て見ぬふりをしてアルビスから距離を取る。  一歩一歩、歩を進めるごとに楽団の演奏と、会場のざわめきが大きくなっていく。  カレンは二度目の夜会はどうか平穏無事に終わりますようにと祈りながら、上座へと向かった。
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