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執務室を後にしたカレンの足取りは重かった。
(結局、アイツは口だけの男なんだよね)
信じていたわけじゃないけど、約束を平気で破るとは思ってなかった。でもここは異世界。元の世界と約束の重さが同じとは言い切れない。
カレンは強い虚無感に襲われ、ため息を吐く。しかし異世界というワードから、ある可能性に気づき、悔し気に顔を歪めた。
「あー……そっかぁ」
してやられた感を万歳にして足を止めたカレンに、リュリュも同じく足を止めた。
「どうされましたか?」
覗き込まれながら問われたカレンは、苦々しく吐き捨てる。
「あの人が魔法を使えること、忘れてた」
「……はぁ、さようですか」
返答に困ったリュリュは、曖昧に頷いた。
普段ならアルビスの話題については適当に聞き流してほしいカレンだが、今日に限ってはもう少し真剣に聞いてもらいたい。
「あの人、瞬間移動ができるじゃん。だから誰にも気付かれずに、側室のところに行ってるのかもしれないよね」
「まさかっ、それはないでしょう」
リュリュは目を見開いて、食い気味に否定した。
「そうかなぁー、アイツならやりかねないと思うけど?」
「いえ。陛下に限ってそのような……っ!」
必死に誤解を解こうとしたリュリュだが、突然口を噤んだ。
カレンもまたリュリュから目をそらし、等間隔に設えてある窓に釘付けになる。
「ねえ、リュリュさん、この生活ってあの人にとったら、とっても都合がいいのかもしれないよね?」
「っ……」
再び度肝を抜くような質問を受けた侍女は、賢くも無言を貫いた。ただ、その表情は「あちゃー」と言いたげなもの。
カレンが見つめていた先には、ヴァーリとシダナを引き連れたアルビスがいた。
アルビスは議会に参加する為に、外廷に続く渡り廊下をかなり急ぎ足で歩いていたが、そこに3人の女性が現れアルビスの元に駆け寄ったのだ。
このロダ・ポロチェ城の内廷は皇族の住まいだけではなく、側室の住居もある。お仕着せを身に付けていない女性は、皇族か側室に限られている。
アルビスの元に駆け寄った女性達は、カレンより何倍も豪奢なドレスを身にまとっていた。髪も華やかなリボンや、豪華な宝石で飾り立てていた。
「なぁーんだ。わざわざ、あんなこと言いに行かなくても良かったんじゃん」
「……」
拍子抜けしたようなカレンの言葉に、リュリュは無言を貫き通す。本気で言葉が見つからない。
それに対して、カレンは無駄に饒舌だ。
「ねぇ、リュリュさん。あの人、愛人さん達と今日の段取りの打ち合わせでもしてるのかな。でも、メイドさんたちは、近くにいないんだね。残念。こういうところこそ、ちゃんと見て欲しいのに。もうっ」
憤慨するカレンと窓の向こうにいるアルビス達を交互に見ながら、リュリュは思わず額を手に当てて空を見上げたくなる。
アルビスの間の悪さはこれまでの所業の結果ではあるが、いくらなんでもこの光景を見てしまえば、誤解を解くのは容易ではない。
カレンとアルビスとの溝は、更に深くなってしまった。
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