7.バスに揺られて

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 目的地は郊外のショッピングセンターにした。映画館や多数の飲食店、アパレル店などが入る大型施設で、僕らのような中学生もよく家族で訪れる場所だったから、同級生の目は気になったけれど、外で過ごすには厳しすぎるこの季節、僕たちが行ける屋内施設の選択肢なんて限られるほどしかなかった。  それに僕にはあと数週間の間にどうしても果たしたい目的があったから、そのためには小野寺さんと一緒にショッピングセンターに行く必要があった。  十二月に入りちょうど冬の映画が封切りになったこともあって、僕の提案に小野寺さんも賛同してくれた。むしろ彼女のほうが乗り気だった可能性も否めない。こちらが拍子抜けするほど「行きたい!」と目を輝かせてくれた。  そんな風にして僕たちの四度目のデートの舞台は決まったのだけど、そこまでの移動に関しては各自任せ、現地集合とすることにした。僕たち中学生だけで行くとなればバスを利用することになるだろうけれど、一緒に乗っているところを誰かに目撃されるのは避けたかった。バスは学区内を走るだけに、仮に同級生が乗り込んで来ようものなら一発でアウトである。  だからデート当日、僕は待ち合わせ時間よりもあえて一本早いバスに乗った。同じ学区内から乗るバスなのだから、普通に時間通りのバスに乗ったらバッティングしてしまって、現地集合の意味がなくなってしまう。そう考えての行動だったのだが―― 「あ……」  後から乗り込んできたニット帽の女の子が小野寺さんだと気づいた瞬間、僕は凍り付いた。彼女もまた僕と同じように考え、一本前のバスを選んだのだ。  幸甚なことに一緒に乗り合わせたのは知らない大人の人ばかりで、彼女はとても自然に僕の前の席に座った。僕たちは横に並んで座ることこそ避けたものの、一人用の席の前後に並んで座ることになった。  周囲が大人ばかりと言っても、親し気に会話するのは気が引ける。もしかしたら窓の外を同級生が通るんじゃないかと、キャップを目深に被りなおす僕に対し、小野寺さんは意外なほど明るい笑顔で振り向いた。 「おはよう」 「……ん、おはよ」 「結局一緒になっちゃったね」  ペロリと舌を出す小野寺さんの唇に目を奪われる。彼女の無邪気さが、たまらなく胸に突き刺さった。  それきり僕たちは、会話も交わさずにバスに揺られ続けた。幹線道路を走るバスは外から誰に見られるかわからなかったし、元よりバスの中は静寂に包まれていて、ほんのちょっと交わしただけの僕らの会話ですら妙に響いて聞こえたから、ペラペラと喋り続けるのは気が引けた。
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