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毎月各クラスの図書委員が持ち回りで発行する図書館だよりでは、今月の新刊や図書委員のおすすめの本などを紹介する。そのために僕たちは図書館だよりの制作が終わるまでの二週間ほどの放課後を、お互いの部活がある日を除いてほぼ一緒に図書室で過ごすことになった。
図書館だよりに載せるおすすめの本をどうしようか、という話題の中で期せずして僕も彼女も宗田理の『ぼくらシリーズ』の読者であったことが判明し、一気に会話が弾むようになった。僕は主人公である菊池英治のはっきりしない性格にいらいらして仕方がなかったのだけれど、小野寺さんはむしろ菊池英治は勇気があると褒め称えた。
「みんなの前で告白するなんて、絶対できないもの。あんなことされたらドキドキしちゃうと思う」
そうやって公然と想いを伝えておきながら、言いっぱなしで相手の気持ちをしっかり確認しようともしない菊池英治のいい加減な人間性に対して、僕は苛立ちを感じていたのだけど。
それはともかくとして、少しはにかみながら言ったこの時の小野寺さんの横顔によって、僕は恋に落ちたのである。頭の中でスイッチが切り替わるどころか、心臓を稲妻で撃ち抜かれた上、崖から突き落とされたようないまだかつてない衝撃だった。
僕の頭の中のホーム画面には以来その時の小野寺さんの横顔が貼り付き、ちょっとでも思考を停止しようものなら、画像フォルダを一括でシャッフル再生したようにありとあらゆる角度の小野寺さんが絶え間なく頭の中でぐるぐると駆け巡った。どこまで落ちても僕の頭の中は小野寺さんでいっぱいで、このまま小野寺さんに埋もれて溺れ死んでしまうんじゃないかというぐらい、僕は小野寺さんのことしか考えられなくなってしまった。
『ぼくらシリーズ』の菊池英治に触発されたわけではないけれど、図書館だよりの制作が終わり、「評判もそこそこ良かった」と図書室の真奈美先生のお褒めの言葉をいただいた後、図書室に誰もいなくなったタイミングを見計らって僕は「小野寺さんが好きです」と告白をした。
手紙や電話といった手段も考えなくはなかったけれど、きっと小野寺さんはその方が喜んでくれると思ったから。
僕の想いが通じたのか、小野寺さんは顔を真っ赤にしながら「わたしも」と答えてくれた。
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