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でも冷静に考えてみれば、僕たちはお互いに相手のことが「好き」であるという感情を確認し合っただけで、明確に「付き合おう」とか「彼女になって」という交際関係を結んだわけではない。
ただ両想いであるという事実だけに浮かれ、満足して、付き合ったつもりでいた。僕は小野寺さんを自分の彼女だと思っていたし、多分小野寺さんもそう認識しているのだとばかり思いこんでいた。
もし男女が二人きりで遊びに出掛けるのをデートと呼ぶのであれば、最初にデートに誘ったのは僕のほうだった。僕はもっともっと彼女のことを知りたかったし、彼女と一緒にいたかった。頭の中の内部ストレージはほぼ小野寺さんで埋め尽くされているにも関わらず、もっともっと彼女に関するありとあらゆる情報を欲しがった。僕は本能に突き動かされるように、いちいち僕たちは付き合っているのか、彼氏彼女と呼んでいい間柄なのかなんて確認しようとも思わずに、無邪気に遊ぶ約束を結んだのだ。
最初のデートは映画を見に行った。
二度目のデートは一緒に隣町の図書館で試験勉強をした。
僕の誕生日に公園で初めてキスをして、三度目のデートで駅裏のアミューズメント施設に行った帰りに、同じ公園で二度目のキスをした。
こう書くとあっという間のように見えるかもしれないけれど、たった三度のデートと二回のキスを交わすまでに、僕たちは半年もの時間を費やしていた。その間に季節は春から夏、秋へと変わり、今や冬を目前に控えていた。
キスという結果だけ捉えれば僕たちは恋人同士には間違いないのだろうけれど、それを除いてしまえば、僕たちはこんなにも長い間、ろくにカップルらしいこともしていないのだ。
四月に出会い、五月の後半に告白をしてからというもの、三度のデートと二回のキスを除けば、週に一度の図書委員と毎晩の「おやすみ」のメッセージを積み重ねることだけが僕たちの関係だった。
そのうちの「おやすみ」が失われただけで、僕たちの関係はあっという間に希薄化してしまったように感じてしまう。
もしかしたらこのまま何事もなく自然消滅してしまうのではないか、という不安に襲われる。
たった一度、キスを拒まれただけで。
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