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7.バスに揺られて
ちょきちょきと小野寺さんがハサミを動かすのを、僕は隣で静かに見守る。下絵も線も何もないのに、彼女は一見無造作に手を動かし、不揃いなインゲン豆や芋虫みたいな塊を切り出していく。
切り取られた紙片を重ね、糊やテープでくっつけていくうちに、だんだんと彼女が作っているものがわかってくる。ちょっとしたクイズのようだ。
「門松……かな」
不正解の時には無表情な彼女だけど、正解の時にはピクリと眉が反応する。にんまりと得意げな笑顔を浮かべて、出来上がった切り絵をじゃん、と音が出そうな勢いで僕に突き付けた。
「当たり!」
いつもは周囲の目を気にしてばかりの僕たちだけれど、図書室が空いている時にはこんな風に穏やかに、楽しく過ごすことだってある。用事がないのにくっついていたら不自然だけれど、図書室の飾り作りという共同作業は立派な名目たりえる。
それにしたって度が過ぎればバレバレだから、僕は素っ気ない態度にならざるを得ないのだけど。
「あら、まただいぶ凝ったものを作ってくれてるのね。菜穂ちゃんは上手だから助かるわ」
真奈美先生に褒められると、小野寺さんは恥ずかしそうに頬を染めた。
「ねぇ菜穂ちゃん。そこのカウンターの下にしめ縄みたいな飾り作れないかしら? こうリボンみたいな感じにして」
「わぁ、素敵ですね。だったらリースみたいにしてもいいですか? 干支の絵とか入れて」
「いいんじゃない。おまかせするわ」
盛り上がりを見せる二人とは逆に、僕は自分の気配を消すように口を噤む。例え先生であろうとも、そこに第三者が介在すれば僕たちは瞬間的に距離感のあるただのクラスメートの立場へと姿を変える。
貸出本を持ってきた生徒の対応をし、真奈美先生が席を離れ――やがてまた、煙が晴れるように二人きりの空気が戻ってくるのを待って、僕たちはひそひそと言葉を交わし出した。
「今度また、遊びに行かない?」
「いつ?」
「次の日曜とか」
「大丈夫……だと思う。どこに行くの?」
「まだ決めてない。行きたいところある?」
淡々と工作に勤しみつつ、何食わぬ顔で二人だけの約束を結んだ。
期末テストと仲直りという二つの大きな障害を乗り越えた僕たちが、四度目のデートを計画するのは必然だった。
何よりも僕たちには話したいことがたくさんあった。毎夜交わされる「おやすみ」のメッセージや、図書委員に乗じてよそよそしく断片的に交わす会話だけでは、到底時間も内容も足りなかった。
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