3.そもそも僕たちは

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3.そもそも僕たちは

 六限目が終わると掃除当番というものがあって、各々が割り当てられた先で約十分間の清掃活動を行う。締めくくりには、まとめたゴミを校舎の北側のリサイクルハウスまで誰が捨てに行くか、じゃんけんで決めるのが恒例だった。 「最初はグー! じゃんけんポイ!」 「よっしゃ、田丸の負けなっ!」  全員グーの中一人だけチョキというどうも嵌められたような負けを引いた僕は、胸の中にくすぶるもやもやとした煙のようなものに気付かないフリをして、ゴミ袋を手に廊下を急いだ。  席順からオートマティックになされた班分けにより、僕はクラスの中でも一番目立つ存在である昌也と同じ掃除当番に属していた。昌也は箒で床を掃くのではなく、スイングしたり、突いたりする道具だと思い込んでいて、掃除の時間はチャンバラや追いかけっこのためにあると誤解しているタイプの人間だ。当然、彼がゴミを捨てに行っているところなんて見たことがない。  かといって、それに対して不平を唱えるほど無益なやり取りをする気もなかった。何よりも僕の頭の中は小野寺さんでいっぱいだった。ちょっとした理不尽なんて、ゴミ袋と一緒にリサイクルハウスに投げ捨ててしまえばいい。 わざわざ一旦昇降口まで行って下足に履き替え、重いアルミサッシの扉を開けて外へ出た。途端、吹き付ける冷たい風に震え上がった。  空には綿菓子の残り滓を貼り付けたような薄い雲が広がり、どこまでも柔らかな水色が続いていた。それなのに風はびゅうびゅうと音を立てて容赦なく僕の頬を叩き、瞬く間に指先の感覚を失わせた。服の隙間という隙間から冷気が入り込んでは、僕の体から体温を奪った。  せめて上着を着て来れば良かったな、と後悔しつつ、風に抗うように走り出した。リサイクルハウスの中に叩きつけるようにごみ袋を放り投げ、再びダッシュで取って返す。火事の火の手から逃げるように、無意識に呼吸を止めての無酸素運動。  昇降口の中へと逃げ込み、暖かい空気を大きく吸い込んだ僕は――見慣れたダッフルコート姿でごみ袋をぶら下げる小野寺さんとばったり出くわした。 「あ……」  小野寺さんも僕に気づき、目を丸くする。小野寺さんたちの掃除当番は音楽室だったから、彼女も僕と同じようにそのゴミを捨てに来たのだと、一目見ただけで理解した。
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