3.そもそも僕たちは

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 まるで時間が止まったかのように、僕たちは呆然と見つめ合った。まさかこんなタイミングで、二人きりになる機会が訪れるなんて思いもよらなかった。  久しぶりに正対する小野寺さんの顔に、僕の目は釘付けになる。小野寺さんの小さな唇は、「あ」の形のまま固まっていた。彼女の動揺を示すように、小野寺さんの瞳が微かに揺れている。  でも僕はずっとこういう偶然を心の中で願っていたから、彼女に言うべき言葉はいつだってすぐ吐き出せるよう準備していた。何度も、何度も、何度も、頭の中でシミュレーションを繰り返してきた結果たどり着いた、たったの三文字。メッセージアプリのタイムライン上で、読まれることもなく宙ぶらりんになっているのと同じ言葉。 「ご……」 「菜穂、行こう!」  ……めん。  喉元まで出かかった言葉は、下駄箱の陰から飛び出した人影にあっけなくかき消された。いつも小野寺さんと一緒にいる須田さんだ。須田さんもまた、ゴミ袋を一つぶら下げていた。 「うん」  せっかく僕に向けられていた小野寺さんの視線は、須田さんへの頷きに切り変わってしまった。 「惜しかったなぁ。もうちょっと早かったら田丸くんに一緒に捨てて貰えたのに」  僕がゴミを捨てて戻ってきたことも、彼女たちにとっては一目瞭然だったのだろう。須田さんの軽口に「やらないよ」とぶっきらぼうに返す。良いところを邪魔されたと惜しむ気持ちと、危うく悟られるところだったと間一髪の危機を免れた動揺から、若干強めの口調になってしまったのは否めない。 「この寒い中女子に行かせるなんて信じられないよね。うちのクラスの男子マジで気が利かない」  とかなんとか、ぶつくさ言いながら須田さんが昇降口の扉を開けた途端、吹き込む冷気に二人は「きゃあ」と悲鳴をあげた。後ろ手に扉を閉め、恨み節を口走りながら駆け出していく。  その間も、二度と小野寺さんは僕を顧みることはなかった。  後ろ姿を目で追うことすら適わず、僕は彼女への想いを断ち切るように教室へ向けて走り出した。
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