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「おはよ! 白石さん」
「おはよう……瀬永くん」
今日もはちきれんばかりの眩しい笑顔。
「やっぱり誰もいないな」
「うん……。まぁ初日来なかったらずっと来ないよね……」
スコップとゴミ袋を準備する。
「ところで、今日仮入部する?」
「あ、いや、私はまだ見学しようと思って……」
あの時、バスケ部を勧められて、もう少し考えようかな、なんて思った。
バレー部を考えていたのも、好きな漫画の影響や、活動も運動部の中ではゆるそうといったテキトーな理由。それなら、せっかく勧めてくれたし、バスケ部もいいかなって。活動はバレー部より大変そうだったけど。「変わりたい」って思っているんなら……。
「そかそか。まぁゆっくり考えた方がいいよな。三年間ついてまわるし。まぁ俺はすぐにバスケ部って決めたから、説得力ないけど」
「ううん、すぐに決めたかもしれないけど、瀬永くんは趣味でバスケしてたんだし、ちゃんと考えてるよ」
そう言うと、瀬永くんの表情が少し曇った。
体が凍りつく。
え、私何かまずいこと言ったんだろうか。気に障るような、なんか嫌なことを……。
「いや、全然考えてなんかないよ。ほんと、楽しいって気持ちだけ」
「そ、そうなの」
何事もなく、明るい瀬永くんに戻ってホッと息をつく。
「楽しいのが一番じゃん。俺はそれが基準。白石は何を基準にしてるか知らないけど」
「……私は、変わりたいって思ってる」
「え?」
「もっと明るくて、元気で活発で、可愛い子になりたいって思ってる」
今度は瀬永くんの動きが止まった。それとは対照的に、私の口は止まらない。
「私、名前がすごくコンプレックスで。『シライシマイさん』って呼ばれるたびに、ああ、名前負けだなって思うの。なんで私の名前は舞なんだろうって、両親を少し恨んでる自分も嫌で」
「……そうか」
「ごめんね、こんな不幸自慢みたいな話。突然されても困るよね……」
ちょっと話し過ぎた……。いくら一緒に花壇や校門前の庭を二人で手入れするようになったからといって、こんなこと言うべきじゃなかった――。
後悔していると、瀬永くんが目を合わせてきた。
「……不幸自慢なんかじゃねぇよ」
「えっ」
「今まで、タレントと同じ名前で辛い思いもしてきたわけだろ? それは事実だし、大変だったと思う。でも、白石。俺は舞って名前、すごくいいなって思う」
「……え」
「俺さ、中学になる前まで、ダンス習っててさ。まぁ、全然遊びみたいな習い事だったけど。すごく楽しくて好きだったんだ。だから舞って見ると、こっちの気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような、そんな感じがするんだ」
――舞って名前、すごくいいなって思う。
――こっちの気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような。
そんな風に言われたのは初めてで、なんだかくすぐったい気分になった。
「あ、ありがとう。すごく、嬉しい……」
「名前の由来も、もしかしてダンス?」
「ううん。私四月生まれなんだけど、生まれた日、すごくきれいに桜が舞い散ってたみたいで。それで舞ってつけられたらしくて……」
「へぇ! 由来もなんだかしゃれてるな!」
「そ、そうかな……桜が舞い散ってて「舞」にするよりかは、「桜」にしてほしかったと何度も思ったけど」
「確かに桜もいいけど、舞ってちゃんと花びらがひらひらした映像が浮かぶじゃん。ご両親、センスあるよ。いい名前だね」
なんだか褒めちぎられて、顔が赤くなる。
ずっと名前がコンプレックスだったけど、「舞」って名前が少し好きになれたような気がする。
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