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「え、それって……本当にそういう名前なの?」
もう、このセリフ何度目だろう。ここまでくると、一周回って笑ってしまう。
「……はい。本名……です」
自己紹介。目立ちたくないのに。当たり障りのないことを言っても、注目されてしまう。
――白石舞。
元乃木坂46の大人気アイドルと、同じ名前。「まい」の漢字は違うけれど、読み方が同じだからあまり関係ない。
「白石さんってさー、アイドルと同じ名前でかわいそうだよね~」
「わかる。全然顔も雰囲気も違うよね。完全に名前負け」
小学校の頃、そんな風に陰で言われていた。思い出すだけで、胸に針が刺さったようにチクリとする。
私だって、好きでこんな名前になったんじゃない。そんな風に言われる筋合いなんてないのに……。
「かわいそう」「名前負け」。きっと、質問してきた隣の席の子も、そう思っているんだろうな。ただ自己紹介をしただけなのに、どっと疲れた。
「じゃあ次……どうぞ!」
「ウス。今原小学校から来た瀬永琉偉です。趣味はダンスで……」
窓から柔らかな光が差し込み、カーテンがふわりと膨らむ。
中学校になったら、環境ががらりと変わる。知らない人もたくさんいて……なんて思っていたけど、このクラスは同じ小学校の子たちが半数を占めている。なんだか拍子抜けした。まぁでも、この中学校は市内の三つの小学校区の生徒が集まっていて、特に私の出身小学校は中でも一番規模がでかいから、当然かもしれないけど。
そして私は、ちょっとでもいいから変わりたい、なんて思ってる。
「白石舞」という名前に負けないような、明るくて元気な、可愛い女の子に。
この名前のせいで、自己紹介のたびに嫌な目立ち方をするから、それに負けないように、って思っているけど……。
「よろしくお願いします!」
後ろの席の男子(確か瀬永くん)が元気よく声を上げ、座る。
「ねぇ、彼かっこよくない?」
「えぇ~。まぁ目元はきりっとしてるし、いい感じではあるよね」
「何それ、ちょっと辛口じゃない?」
周りの知らない子たちのひそひそした声が耳に入ってくる。
少し、ドキッとする。
あの子たちは、瀬永くんに対して言ったのであって、私のことを言ったわけじゃない。それに、悪口でもない。だけど、クラスの子を見定めて点数をつけているような感じがして、なんだか体がキュウっと縮む感じがする。
――ダメだ。私ったら、またそんな暗いこと考えてる。ちゃんとしなきゃ、変わりたいって思ってるんだから……!
膝の上で拳を作り、力を強くこめた。
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