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「まーいっ!」
ハッとして振り返る。
「と、東花」
「どうしたん、なんか今日ずっとぼーっとしてるじゃん」
「そ、そうかな。べ、別に何もないけど」
自分でも、すごくわざとらしく誤魔化したなって思う。
「今日の部活もずっと上の空だったし、なんというか、普通じゃないというか……。なんかあったの」
「……べ、別に、本当に何もない……」
俯いてそう呟く。
「……無理に話せとは言わないけど……一人で抱え込まないでね。私でよければ、話聞くからさ」
東花が真剣な顔で私を見る。
それが何だか腹立たしくも、申し訳なさもあって、心の中がぐちゃぐちゃになる。
「ね、ねぇ」
「ん?」
「東花って……好きな人いるの?」
あ……しまった、と言ってから思った。
いくらそのことで頭がいっぱいだからと言って、あまりに脈絡がない。それに、まだ出会って日が浅いのに、そんなこと話し合えるような仲かも微妙だ。
「す、好きな人……」
東花はそう呟いて、黙ってしまった。
沈黙が、気まずい。
ごめん、こんなこと急に聞くべきじゃなかったよね~なんて言いたい私と、ほら黙ってないで言いなよ、瀬永が好きって! ……なんて言おうとしている私がいる。
ぐるぐると考えていると、東花が口を開いた。
「いるよ。好きな人」
「え」
「好きな人っていうか、彼氏だけど……」
「え、えええ」
か、かかか彼氏?!
「小さいころからずっと好きで、小六の時に両想いになれたんだけど。今ちょっと微妙でさ」
ガーン、と頭を金属バットで殴られたような、ショックが体中に走る。
小さいころからずっと好き。
瀬永と幼馴染。
小六の時に両想い……。
「その人が住田中だから、福中じゃなくて、こっち来たんだけどね」
もう、その一言で、全て憶測が正しかったんだとわかってしまった。
瀬永と東花は付き合っている。
東花は瀬永のために福田中ではなく、ウチ……住田中に来た。
今ちょっと微妙なんて言っていたけど、それでもすごく仲の良い、カップル……。
「そ、そーなんだ……へ、へぇ……」
全く感情のこもってない、平らな声が出た。
十八時なのもあって、辺りはもう暗くなっていた。
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