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「ウス! 白石」
「おはよ、瀬永……」
日曜日。今日も瀬永とバスケの特訓……。
でもいいんだろうか。彼女がいるのに、私と二人きりで練習って……。東花は嫌がらないんだろうか。
まぁ、相手が私だから「こんな何の長所もない女、恋愛に発展するわけない」なんて思われているんだろうけど……。
「今日はパス練しよっか」
「……うん」
ダムダムとボールをついて、ほいっと投げる。
「白石、チェストパスして」
チェストパスは、仮入部の一番最初にやった、胸から投げるパスだ。
「……はい」
「お、いいね。じゃあ今から俺投げるから受け取ってみて」
ダムダム……ダンッと、バウンドしてこちらに返ってくる。
「どう? 受け取ってみて」
「……う、受け取りやすい」
「だろ~。チェストパスも基本なんだけど、試合中にパスしたりするのは、バウンドパスがいいんだ。空中で投げると、どうしてもボールを途中で取られたりしちゃうから。バウンドパスだとそういうこともないし、何より受け取りやすい」
「そ、そうなんだ」
「相手のことを考えて、パスをする。試合は一人でやるわけじゃないから。チームメイトのことを考えたり、敵チームのことを考えるのも大切」
そう言って、またダンッとパスを決めてくる。
「じゃあ、俺が取れやすいように、どこに投げるか考えて、バウンドパスしてみて」
「……うん」
ダムダム……ダンッ。ダムダム……ダンッとお互いにパスをしあう。
瀬永が受け取りやすく……瀬永が受け取りやすく……。
瀬永……。
「小さいころからずっと好きで、小六の時に両想いになれたんだけど」
東花の言葉が、頭の中で響く。
……ダダッ……デーンデーンデーン。
ボールが手から滑って違う方向へと跳ねていく。
「ご、ごめん……瀬永……」
「どんまいどんまい、そんなこともあるよ」
瀬永が走って取りに行く。
「じゃ、また投げるよ」
「せ、瀬永」
「ん~?」
「ごめん、ちょっと用事思い出した。帰る」
そう言い残して、逃げるように走った。
「え? し、白石? どこ行くの? 用事って?」
もう、耐えられなかった。
瀬永とこれ以上いても、苦しくなるだけ。
どんなに私が好きでいても、瀬永は私のことを好きになることはない。
これじゃあ、一方的にボールを投げているだけだ。
受け取りやすいようにと思って投げても、受け止めてもらえない。
「ごめん……瀬永……」
何かが壊れてしまわないようにと、こらえていたけど、目に張っていた膜は崩れ落ちた。
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