4 敵わない……

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「わかるよ」  え、と声が漏れる。 「わかるよ。私、別に性格よくないし。顔だって、もっと可愛かったら彼に寄り添えるかも、って何度も思った。バスケだって、プロになれるような実力じゃないし……」  東花が俯く。 「それに、私も東花って名前、あんまり好きじゃないの」  すごく、沈んだ、暗い声だった。 「おじいちゃんが競馬、すごい好きで。昔、『トウカイテイオー』って馬がいたんだって。その馬が大好きだから、孫を『トウカ』って名づけるってきかなくて。漢字を適当に当てて、『東花』にしたみたい」 「……そ、そうだったんだ」 「小学校の頃、名前の由来を調べて発表する授業があるじゃん。みんな『こんな子になってほしい』とか『こういう意味を込めた』とか、色々考えてつけられているのに、私は競馬の馬だから。すごく恥ずかしくて」  東花は何も苦しいことなんてないと思っていた自分が、すごく恥ずかしかった。  東花も、どろどろとしたものを抱えていた。 「それに、私、舞って名前好きだよ。気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような、そんな感じがして、好き」  目を見開く。  ――舞って名前、すごくいいなって思う。  ――こっちの気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような。 「……瀬永と、同じこと言うんだね」 「え?」 「前に、瀬永に『舞って名前、気持ちが弾む感じがして好き』みたいなこと言われて。すごく嬉しかったんだ」  フフッと笑みがこぼれる。 「やっぱり、付き合ってるから、考え方も似ているんだね」 「……え」 「いいね、そういうの」  羨ましくなって、東花の顔を見る。すると、なんだか不思議そうな表情をしている。 「え、もしかして、琉偉(るい)と私が付き合ってる、って思ってる?」 「ん? う、うん」  みるみるうちに、東花の顔が赤くなっていく。 「ちょっとやめてよ! あいつと付き合うわけないじゃん!」 「ええっ」 「琉偉とは本当にただの幼馴染! 私が付き合ってるのは、琉偉のお兄ちゃんの佳偉(かい)だよ!」 「……えええええ!!」  今年に入って一番大きいな声が、その場で響き渡った。
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