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「わかるよ」
え、と声が漏れる。
「わかるよ。私、別に性格よくないし。顔だって、もっと可愛かったら彼に寄り添えるかも、って何度も思った。バスケだって、プロになれるような実力じゃないし……」
東花が俯く。
「それに、私も東花って名前、あんまり好きじゃないの」
すごく、沈んだ、暗い声だった。
「おじいちゃんが競馬、すごい好きで。昔、『トウカイテイオー』って馬がいたんだって。その馬が大好きだから、孫を『トウカ』って名づけるってきかなくて。漢字を適当に当てて、『東花』にしたみたい」
「……そ、そうだったんだ」
「小学校の頃、名前の由来を調べて発表する授業があるじゃん。みんな『こんな子になってほしい』とか『こういう意味を込めた』とか、色々考えてつけられているのに、私は競馬の馬だから。すごく恥ずかしくて」
東花は何も苦しいことなんてないと思っていた自分が、すごく恥ずかしかった。
東花も、どろどろとしたものを抱えていた。
「それに、私、舞って名前好きだよ。気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような、そんな感じがして、好き」
目を見開く。
――舞って名前、すごくいいなって思う。
――こっちの気持ちも弾んでいくような、リズムに乗れるような。
「……瀬永と、同じこと言うんだね」
「え?」
「前に、瀬永に『舞って名前、気持ちが弾む感じがして好き』みたいなこと言われて。すごく嬉しかったんだ」
フフッと笑みがこぼれる。
「やっぱり、付き合ってるから、考え方も似ているんだね」
「……え」
「いいね、そういうの」
羨ましくなって、東花の顔を見る。すると、なんだか不思議そうな表情をしている。
「え、もしかして、琉偉と私が付き合ってる、って思ってる?」
「ん? う、うん」
みるみるうちに、東花の顔が赤くなっていく。
「ちょっとやめてよ! あいつと付き合うわけないじゃん!」
「ええっ」
「琉偉とは本当にただの幼馴染! 私が付き合ってるのは、琉偉のお兄ちゃんの佳偉だよ!」
「……えええええ!!」
今年に入って一番大きいな声が、その場で響き渡った。
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