5 瀬永ともっと近づきたい!

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 心臓がバクバクする。  それも、こないだの比ではないくらいに。 「ゴールのあの四角にめがけて打つ! こんな感じ」  瀬永がダンダンとついた後、シュッとボールをゴールの中へと入れる。 「白石も打ってみなよ」  手が、熱くなって少し震える。  ……ちょっと、私しっかりしてよ。別に告白するわけじゃないんだから!  そう思っても、うるさい胸の音はおさまりそうにない。  ダンッ……デーンデーン。  ……やだ、ゴールの四角のところに当たるどころか、全然見当違いのところに飛んでった……。 「あはは、白石、緊張してんの? 練習だからリラックスリラックス」  そうだ。私、リラックス、リラックス……。  ダンッ……デーンデーン。 「どんまいどんまい。ちょっと、力んでるのかもしれないな。力を抜いてやってみなよ」  何度やったって同じだ。きっとまた投げても、変なところへ飛んでいく。  瀬永のこと、直視できないし、これじゃあ本当に練習どころじゃない。 「……あ、あのさ」 「ん?」  耳の奥でデーンデーンとボールの跳ねる音が聞こえる。手足が、ガクガクと震え、ギュッと唇を噛み、開いた。 「せ……瀬永って、彼女いるの?」  瀬永は目を丸くさせた。 「……」  そのまま黙って首を横にふる。  ……い、いないんだ。やっぱり、東花の言うとおり……。  瀬永の、顔が赤かった。  私の顔も熱い。  お互い俯いて、沈黙が流れる。  な、何これ。恥ずかしいし、気まずい……。  とても、長い時間に感じる。  やっぱり、慣れないことするから、こんなことになるんだよ……。 「あ、あのさぁ瀬永」  耐えきれなくなった。と、とりあえず、何か言わないと、何か……。 「わ、私の友達、彼氏がいてさ。なんか同じ中学生とは思えないほど大人びてて、なんか瀬永ももしかしたら彼女とかいてさ、あ、遊んでるのかなぁって思ってさ。あ、あは、あははは」  ……我ながら、何言ってるんだろう。  あまりに脈絡がないし、「遊んでるか気になった」って最低すぎる返し。 「……へぇ。白石の友達、大人びた恋愛してるんだ」  瀬永の声は、呟いているように小さかった。 「そ、そうそう、それはもうすっごい大恋愛でさ、な、なんか憧れちゃうくらいだよ~!」  意味不明って分かってるのに、どうしてこうも、思っていることと違うことを伝えてしまうんだろう。  そして何のために、「彼女いるの」って聞いたんだろう。恵子の言う「ジャブ」になっている気がしない。 「へー。そっか」 「うん……そ、そうそう」  コートの向こうには、私が飛ばしたボールが、風に揺られて動いていた。
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