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「ありがとう東花……。東花は、瀬永のこと好きにはならなかったんだね」
軽い気持ちで言うと、東花は「え?」と顔をしかめる。
「当たり前。全然タイプじゃない」
「ええっ」
「あいつ、昔は超泣き虫で。サッカーやってたんだけど、佳偉に比べたらてんでダメで。よく人気のない所とか、私の前で泣いてたよ」
「そ、そうなんだ……」
「まぁ、佳偉がすごすぎたんだけどね。背番号は常に十番のエースで、小学校卒業時にいろんなクラブからスカウトされてたしね」
「へぇ……」
サッカーやってたんだ。そういえば、バスケも初心者って言ってたな。その割にとても上手だけど……。
「あ、もしかして、瀬永にバスケ教えたのって、東花?」
「いや、私のお兄ちゃん。泣いてばかりの琉偉を気にかけて、よくバスケに誘ってたよ。私もたまに混じってやってたけどね」
「……そうだったんだ」
何もかもうまくいってそうな瀬永にも、そんな過去があったんだな。
「瀬永も十分運動神経良いのに、お兄さんよっぽどすごい人だったんだね。そんなエースと付き合うなんてさすが東花」
なんとなく、褒めるニュアンスでそう言った。
笑ってくれると思った。
だけど、途端に東花の顔が曇った。
「……うん。そう、だね」
目に光が消え、少し俯いている。
……何かいけないことを言ったんだろうか。
「じゃあ、そろそろ授業あるから」
「う、うん」
東花はくるりと背を向けて去って行った。
そういえば前に、うまくいってないみたいなこと言っていたな。
あまりお兄さんに触れないほうがいいのかもしれない。
瀬永のことはこれからも相談したいけど……。ほどほどならいいかな。いいよね。
教室に戻って、英語の準備をする。
後ろの方をちらりと見ると、瀬永は男子と冗談を言って笑っていた。
……瀬永。
部活もテスト週間でお休みだし、委員会も2週後くらいにある。
あ~。早く日曜にならないかなぁ。
日曜になって、その出来事を恵子と東花に報告したい。
そう思うと、ひとりでにニヤついてしまう。
ワハハハハ……という瀬永と男子たちの笑い声が響いていた。
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