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「こないだ、俺に彼女いるのって聞いてきたけどさ。白石はどうなの」
「……へ?」
「彼氏、いるの?」
一瞬、自分が何を聞かれているのかわからなかった。
……彼氏、いるの?
それは、私に恋人がいるか否かの質問、ということ……?
「い、いないよ」
「ふーん」
瀬永は遠くを見ている。
私は俯いて、そのまま黙った。
少し、沈黙が流れる。こないだと、同じような空気に、ちょっと体がむずむずする。
「……好きな人は?」
「え」
「好きな人はいないの?」
心臓をぎゅっと掴まれているような、そんな感覚が体の中で起きる。
「……いる」
精一杯、言葉を吐き出すようにそう言う。
「そう」
「そっちは?」
私がそう言うと、遠くを見ながらも、一瞬表情が揺れた。
「そっちは、好きな人とかいないの?」
「……いる」
少し、ぶっきらぼうな言い方だった。
「……そうなんだ」
もう、瀬永のことを直視できなかった。
瀬永には彼女はいないけど、好きな人がいる。
それが、どういうことなのか、考えてしまう。
いくらなんでも、自意識過剰なのかもしれない。瀬永は、かっこよくて、明るくて、優しくて、完璧な男子。そんな人が、私なんかを好きになるのかな……。
本当のことは、瀬永にしかわからない。
でも、ちょっと期待してもいいのかな。
もしかしたら、私たち、両想いなんじゃないのって。
「しゅ、シュート練続けようぜ」
「う、うん」
何事もなかったかのように、瀬永がダンダンとボールをつく。
その背中が、何だかとても大きく感じた。
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