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「……え」
本当は朝弱いのに、当番だからすごく頑張って早起きした。
なのに……。
「誰も……いない」
ホームルームまで後二十分。さっきまで一人で草むしりしていた。誰か来たら、今度こそ話しかけて友達になれるかも、なんて思っていたけれど……。
「大変そーじゃん」「やりたくないね」昨日そう愚痴をこぼしていた女の子二人を思い出す。
……愚痴をこぼすのはいいけど、せめてやらないといけないことはやろうよ。
土がめりこんで、爪が茶色くなっている。
あ~。もうほんと嫌になる。
やりたくないものを押し付けられて、仕事をしているのは私だけ。
中学校。きっと何かが変わると思って期待していた。
「……全然、全然変わってないや」
小学校の頃から、同じ。周りの人も、私自身も。
きっと私はこれからもずっと下の人間として生きて、バカみたいな日々を過ごす。
誰からも気にかけてもらえず、ずっと……ずっとこのまま……。
「ねぇ」
ハッと顔を上げる。
「白石さん、だよね? 一人で何してるの?」
そこには、「かっこいい」と話題になった、後ろの席の男子……確か……。
「せ、瀬永くん?」
「あ、名前覚えてくれてたんだ。嬉しい」
にこりと笑う。
「なんか一人でうずくまってるように見えたから」
「あ、いや、草むしりしてて……。環境委員の仕事で、本当は一年生皆でやるはずなんだけど、私しか来てなくて……」
「なんだそりゃ。環境委員の人たち、すげー無責任だな」
「まぁでも、みんなやりたくないけど仕方なしに委員になった感じだったし、そこはちょっとわかるというか……」
「いや、たとえやりたくないとしても、しなきゃいけないことはしないといけないだろ」
さっき私が心の中で呟いたことを、そのまま話してくれる。
「そ、そうだよね……」
「俺、手伝うよ。この辺草むしりしたらいい?」
「え、いや、悪いよ。そんな……。瀬永くん環境委員じゃないし」
「委員じゃないとしても、クラスメイトがこんな仕事一人で抱えてるなんて、見過ごせないよ。二人でやった方が、楽になれるしな」
にっと白い歯を見せる。
心がじんわりと温かなものがしみ出ている感じがする。
……嬉しい。
さっき、周りの人も変わらない、なんて思っていたけど。ちゃんと気づいて気にかけてくれる人もいた。
「ありがとう。瀬永くん」
噛みしめるように、丁寧にその言葉を発する。
「いいって。早く終わらせようぜ」
瀬永くんはとても眩しい笑顔だった。
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