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空を仰ぐ。
建物に切り取られていない半分は全てが青。雲1つかかっていない。
「たぶん現役で一番強いのはあいつなんだ。今はまだ若いから階級もそれなりの位置だけど。いつか一番上まで上り詰める」
疑う事なく俺は言った。
「認めてるんだね、天司さんのこと」
水原は俺が素直に彗星を褒めるのを意外に思っている。
「ただの事実だからな。その他に言い表しようがない」
気が付けば俺は笑っていた。
あんなふざけたやつが目の前にいたら余計な感情は湧かず笑ってしまうしかない。
「だったらさ、仲良くなれるんじゃない?天司さんも尋君のこと気にかけてたみたいだし」
それは友達作りに怯える子供の背中を押すような声色。
水原の気持ちはありがたいけど、俺は首を振った。
「いや、それはないね」
「どうして?」
普段なら口にしない腹の奥底にしまっていた言葉。
彗星が言うように水原に心を開いているのか、話しやすいだけなのかは分からない。
ただ今は、あいつらに会ってから調子が狂ってる。そういう事にしておこう。
晴れ晴れとした声で俺は言った。
「彗星は、俺にとっての一番のトラウマなんだ」
彗星と仲良くなれない理由はその一言で完結してしまっている。
どんなに優しくても、強くても、完璧でも、憧れていてもそれだけは叶わない。叶えたくない。
「なーんてな」
水原が何か言い出す前に冗談めかして俺は笑った。
それ以上は何も聞かないでくれと願うように。
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