23人が本棚に入れています
本棚に追加
誰だろう。ゆっくりと電話に出ると軽薄な声が聞こえて来た。
『あーもしもし。俺です、おれおれおれおれ』
「……おれおれ詐欺は間に合ってますけど」
『すんません、冗談です。折坂です』
電話の主は全くの予想外で少なからず驚かされる。
「折坂?……どうして俺の番号知ってんだよ」
『いやだなー、この前催促の電話入れたじゃないですか』
それを聞いて思い出す。先日の深夜、待ち合わせ時間に遅れた折坂にいつ来るのか確認したんだった。
履歴はその際残ったとして、どうしてこんな時間に……ってそんなことよりもだ。
「お前、怪我は大丈夫なのか!?いつ目を覚ましたんだよ」
『目を覚ましたのは今日……いや昨日の午後。そのまま退院出来ました。怪我はまぁそれなりだけど、慣れてるから平気です』
「そっか。なら良かった」
ひとまず無事を聞いて安堵する。大事にならなくて何よりだ。
救急箱を手に取り、ソファーに勢いよく腰を下ろす。
「ところで、こんな時間にどうした?急用か?」
「んー、急用と言えば急用なんだけど……」
折坂の歯切れは悪い。
取り出した絆創膏を掠った傷口に貼り付けて続きを待つ。
「矢浪の先輩、これから会えませんか?」
思わず常識を疑ってしまう。何時だと思ってんだ……。
「これからって、もう夜中だぞ?明日にしてくれないか?」
「急ぎでして、今じゃないと駄目なんですよ」
折坂に退く気配はない。返答に時間を要する。
体を動かしてぼちぼち眠い。すぐにでも布団に滑り込みたい気分ではある。
けど、折坂をこのまま放っておくのも何を仕出かすか分かったもんじゃない。この時間に電話して来るのも余程の訳があるのか……。
不本意ながらも軍配は後者に上がった。
最初のコメントを投稿しよう!