深夜潜入作戦

10/34
前へ
/212ページ
次へ
 「ざっけんな。お断りだ」  折坂はバッサリ切り捨てられた。しかし、熱意は本物のようで「そこをなんとか」と食い下がっている。  さっきから何を見せられてるんだろう……。  渦月は折坂に構わず鏡に話掛けた。  「君は鏡と言ったかナ。君の話は僕の耳にも届いてるヨ」  「へぇ、どんな?」  跳ねっ返り娘も自分の噂話には興味があるらしい。眉をひそめ続きを促す。  「戦い好きの奇妙な女だってサ。まぁ、一般人に魔力を行使していると聞いた事はないから、特にマークはしてないけど」  「はっ、奇妙な女ね。違いねーや」  自分に向けられ評価を鼻で笑うと、鏡は渦月を射すくめた。  「あたしもあんたの事知ってるよ。よく働くグレイスの犬。裏であんたを恨んでるやつも少なくないんじゃないの?」  結構きつい事言われているのに渦月が動じる様子はない。  「犬で結構。僕も異論は無いネ。悪事を働くやつにいくら恨まれても痛くも痒くもない」  2人が持つ自信がなせる業か。言葉の応酬の中でも火花が散る事はない。  俺が知っているよりも、もっと深いアンダーグラウンドな会話。時間帯と場所の背景も相まって、知らない世界に迷い込んだ気分になる。  ふと、最初に聞いておかなければならない疑問が浮き上がった。  「そう言えば、どうして鏡はここに?」  鏡は腰に手を当てやれやれと頭を振った。  「愚問だな。ここいらもあたしの縄張りなんだ。見知った顔が2つばかりあったから声を掛けたんだよ」  「ふーん、縄張りねぇ」  鏡の発言にいち早く反応したのは渦月だった。  「なら君にも少し手伝ってもらおうかナ。報酬は期待してもらっていい」  「ほぅ、面白ぇ。聞かせてみろよ」  意外にも鏡はすぐに乗ってきた。やっぱり現金の魔力は底知れない。
/212ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加