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「別に嫌いとか怖いとかじゃないんですけどね。昔からあの人には頭が上がらんのですよ」
それは一種の刷り込み現象かもしれない。
幼少期にこの人には逆らわないでおこうと脳が算盤を弾き習慣化している。瞳さんに躾されたら自然とそうなるか。
だけど折坂と瞳さんを見るに家族中が悪いとは思えない。これが折坂家の形なのだろう。
「それに矢浪の先輩には病院まで運んでもらった恩もありますからね。そこは筋を通すつもりです」
頬を掻き照れ臭そうに折坂は言った。
折坂からこんな言葉が出ると誰が予想できただろうか。
ヤンキーは義理人情に厚いと定説はあるけど、この男が立証するなんて。てっきり喧嘩しか脳がない今時ヤンキーだとばかり思っていた。
いや、これこそスタイリッシュヤンキーのあるべき姿だ。折坂、お前をみくびっていた俺を許してくれ。
「お前、いいやつだったのかよ」
「あれ?俺の事どう思ってたの?」
折坂のイメージを俺は簡潔に述べた。
「そうだな、喧嘩っ早い女好き。いつか刺されるんじゃないかって俺は心配だ」
「間違ってはないですね。刺される予定は……まだ大丈夫でしょ」
不安をかき消すようにぐっと親指を立てる。まだって当てがあるのか。
「おいおい、大丈夫かよ……」
「まぁ、そんくらいなんとかなるでしょ」
折坂から浮ついた雰囲気が消えた。口元に浮かぶ笑みは緊張感が滲む。
「これから宿り身って化け物、相手にしようってんですから」
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