人形哀歌

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人形哀歌

 都会の人には信じられないかもしれないが。小さなの頃の私は、学校が終わったあと公園で一人遊びをすることが珍しくなかった。母が仕事で遅くまで帰らない日が、週に何度かあったためである。そんな時間に、小学一年生とか二年生の女の子が一人で遊ぶなんてあり得ない、人浚いにでもあったらどうするんだと思うのが普通の感覚だろう。正直、自分でもそう思う。けれど、当時私達が住んでいた田舎町は治安も良かったし、ようするにみんな気が緩んでいたのである。  むしろ、もし私にそんな一人遊びの習慣がなかったら。彼に出逢うことは、きっとなかったに違いない。  夕焼けの公園で、彼はいつの間にか私の傍に立っていたのだ。 「あっ!」  その少年は、私より少しだけ年上に見えた。小学校六年生とか、中学一年生とか、だいたいそれくらいの年だろう。一人でいつも通り砂場で遊んでいた時、唐突に影が落ちて気づいたのである。そして驚いた。彼はまるで、魔法少女アニメに出てきた王子様のように素敵な姿をしていたから。 「すごい!髪の毛が、緑色だあ!」  私が歓声を上げると、彼は“最初の感想はそれなのか”と苦笑していた。  緑色の髪に、緑色の瞳。白石の肌に、白いひらひらした不思議な衣装を着ていた。当時の私の知識と今の記憶ではなんとも説明しがたいが、一目見て“お伽噺の王子様みたいな恰好”という印象を持ったことだけ記述しておく。警戒心なんて微塵もなかった。ただただ、凄い人が突然退屈な世界に舞い降りたことに、幼い私は興奮したのだ。 「眼の色も緑色!あ、でもちょっとだけ髪の毛と色違うんだね。凄く綺麗!」 「ありがとう。君もとても可愛いよ」 「やったあ!王子様に可愛いって言って貰えたー!」 「王子様?私が?」 「うん。王子様。違うの?」  そりゃ、見知らぬ女の子に突然王子様だなんて呼ばれたら、戸惑うのも当然だろう。 「私は王子様ではないよ。まあ、君がそう思いたければ、好きにするといい」  この一言で、なんとなく彼の性格が透けたような気がする。きっと自分に気を使ってくれたんだな、ということは幼心にわかった。それでも、彼が王子様のような服装をした、王子様のような美少年であったことに変わりはなく。私は一人舞い上がってしまったのである。彼は勝手に彼を“王子様”と呼んだ。そして遊びに誘ったのだ。 「ねえ王子様王子様!みゆちゃんと遊ぼ!そろそろ一人で遊ぶの飽きてたんだ!」  私が服をぐいぐい引っ張ると、彼は拒絶しなかった。少しだけ動揺した様子で、それでもこくりと頷いたのである。 「……しょうがないな、少しだけだぞ」  それが、私と彼――王子様こと“ロワ”の出会いだったのだ。
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