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ロワは言った。ずっと私のことを見ていたのだ、と。
「君はいつも一人で、この公園で遊んでいるだろう。火曜日から木曜日まで、いつもだ」
「知ってたんだ。そうだよ」
彼にブランコを押して貰いながら、私は答える。
「お父さんが早くに死んじゃって、お母さんはいっつも大変なの。だから、みゆちゃんのためにいつもお仕事頑張ってくれてるの。みゆちゃんはいつも、いい子でこの公園で待ってるの。一人で遊ぶの、退屈だけど我慢するの」
クラスの友達と遊ぶこともあったが、さすがに夕方の五時や六時まで遊びに付き合ってくれる友達はそうそう多くはなかった。みんな、帰る家があったり、クラブ活動や塾があったりする。だから、私は当時火曜日から木曜日は、この公園で六時か、遅いと七時まで一人遊びをするのだった。流石に真っ暗になってきたらすぐそこの家に帰るが、家に帰ってもやることがなくてつまらないだけである。明るいうちは公園で遊んでいた方が、まだ淋しさも紛れたのだ。貧乏だった我が家に、パソコンやスマホといった退屈しのぎの道具もなかったから尚更である。
「月曜日と金曜日はもうちょっと早くお母さんが帰ってくるけど、でもその代り、晩御飯食べたらもう一回お仕事に行っちゃう。だから、みゆちゃんは土曜日との日曜日が好き。でも、お母さん土曜日と日曜日も、もしかしたらお仕事しなくちゃいけなくなるかもしれないって言ってて、凄く寂しいの」
「そうか。君は一人でお留守番を頑張ってるんだな」
「そう!みゆちゃんはとっても強くていい子だからね!」
ほらこんなこともできるの!と。怖いもの知らずだった私は、ブランコから思いきり飛び降りた。母や先生の目の前では絶対できない遊びだ(危ないからやめなさい!と烈火のごとく怒られるからである)。ぴょーんと飛んで、華麗に着地――する直前、白い影が目の前を横切った。
え、と思った瞬間。私はお姫様抱っこで抱きしめられている状態である。なんと、飛び出した私が怪我をするかもしれないと思ったらしく、ロワがとっさに飛び込んできて私をキャッチしてくれたのだ。
さすがに驚いてしまった。ついさっきまで、私のブランコを押すために真後ろにいたのに、なんて反射速度、運動神経なのだろう。華麗な着地、を邪魔されたことより、王子様に抱っこされたことの興奮が勝って私は思わず騒いでしまった。
「凄い凄い凄い!王子様かっこいい!ほんとに王子様だ!お姫様だっこー!」
「こ、こら暴れるな。君が怪我をするかもしれないと思ってびっくりしたじゃないか」
「だってだって!こんな体験できないもん!ロワ凄い、ほんと凄い!スポーツとかやってるの?」
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