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浮き世のアレ
さて美女探しに行こう。
一心は野心を秘めた純粋な男である。
金もない。容姿もない。
あるのは病院にかかったことのない丈夫な肉体だけ。
その誇りだけが一心の心の支えであった。
一心は自宅から歩いて一時間半ほどある旧西鹿児島駅に隣接するLa-Ika2021(ライカにいまるにいいち)
)という最近出来た新ファッションビルで商材搬出入の仕事をしていた。
理由は一つ、美人に会える確率が一番高いからである。
これは一心が過去の経験から導き出したらこだわりであった。
美女に会いたければその街で一番綺麗でお洒落な建物に入ること。
地方都市ではまずもってこの選択は最も期待値が高いのである。
一心は今日も希望を膨らませて部屋を出た。
すると後ろから早足でちょっと怒ったような黒髪の女性が一心を追い越して歩いていった。
(朝は希望の朝だと言うのにイライラしながら出かけるとは全くもったいない。ラジオ体操の冒頭部分を聴くといいさ)
一心はもし実際に声に出したら相手の心を逆撫でしそうなことを胸にしまった。
ちょっとしたいざこざでマンションの隣人トラブルというのは起こりうる。
一心は挨拶し忘れたことを思い出して、しまったと思った。
仕事場着。
勤務中平日といえど若い女性客は多い。
ファッションビルであるから一心の運ぶ商材はマネキンや装飾品を陳列するショーケースなどの入れ替えなどが多い。勿論商品自体も運ぶ。
これほど若い女性の行来が多い建物と言ったら他にはテレビ局ぐらいであろうか。
金が人を集め、建物を作り、建物が美女を集め、そこかしこに男が、女が金を出す
(大正時代も江戸時代もおそらく変わらなかったのだろうなぁ)
一心はふとその浮き世の不変なる奔流に心を輝かせた。
そんな世界の好色一代な男にいつか自分も成りたい。
すると一心の目の前を鋭いような目の光の紫色のメイクをした派手な女性が通った。
その刹那、
「母さん・・・」
一心は思わず本音を漏らしその女性の肩に触れてしまった。
「触んなちよ馬鹿すったん!警察呼んど不二才(ぶにせ)があ」
女の一喝。
不二才とは容姿の悪い男、出来の悪い男のことを意味合いする薩摩言葉である。
「失礼しました!」
本当だよ一心。
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