隔て板なアレ

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隔て板なアレ

「天使です。バルコニーから失礼します」 意識朦朧として夢だとばかり半ば投げやりに受け答えしていた一心だったが ベランダの窓から化粧気のない黒髪のメガネをかけた若い女性が入ってきた。 「天使ですか?」 「見りゃわかるでしょ、て言うか私のこと知らないの?」 「存じ上げません」 一心は機嫌が悪くなった若い女性を見上げる気力さえなかった。 「元気にして殺す」 天使は室内の温度をエアコンで調節し、一心に補水を施し、医者を呼んだ。  白髪の老医師はよたよたしながら聴診器と触診をしてふむふむと頷くと、手慣れた様子で付き添いの元気そうな若い看護士にパルスオキシメータでの測定を指示した。 「んだもしたん!肺炎にないかけちょっが、まあ薬とウッカタ(奥さま)がいればもへ(早く)良くなっが」   「はい」  天使は頬を赤らめて返事をした。 一心は眠っている。  医者と看護士がお役目を終えて帰ろうとした際、玄関先で看護士が思い出したかのように曰く 「奥さま、清拭と陰洗をよろしくお願いいたします」 とだけ告げて帰った。 天使はスマートフォンでその二つの言葉を検索してまた頬を赤らめた。  
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