サロメの殺人

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 家を出ていけるような年齢になってからは、お金がないためSNSで知り合った人たちの家を転々としていた。  何もせず泊めてくれる人もいたが、所詮はネット。悪い大人だからとか、悪ガキにお仕置きとか適当な名目で泊める代わりに性行為を要求する人もいた。  時々、とんでもない趣味の性行為などにも付き合わされたが、気持ちいいという感覚はやはりなかった。キメセクとかは本気で逃げ出したが。それ以外のものに関しては、タダより高い物はないと諦めている。   それに、性行為だけで泊めてくれるならそれはそれだ。今更罪悪感もない。傍から見れば異常だろうが、小さいころから性行為を強要されていたあたしにはそれが普通だった。それに、男は皆汚い存在と認識していたから、諦めている部分もあった。  そんなあたしでも、癒しの時間はある。  性行為が終わり、身体を清めた後に下着姿で美しい月を眺める時間だ。 小さな外国のコインのように、まるで、銀色の花のようにも、あどけなくも冷たい、穢れを知らぬ処女のように見える。穢れと欲にまみれた、あたしとは真逆な存在。  月を愛の言葉に変えた人の気持ちがよくわかるくらい、美しい月は神聖なものだと月を眺めながら思った。  そうやって、月に癒され、空っぽな自分を満たしていた。  のらりくらりとやりながら過ごしていたある日、清く美しい月から、凛とした声が聞こえてくるようになった。それだけではない。性行為しているときやスマホをいじっているときも、街を歩いているときも、あらゆる方向から声が聞こえてくるようになった。例えば、性行為相手の飼っている動物や家具、外にいて窓越しにこちらを見てくる鳥などの動物。  それは、あたしを罵倒するものが多かったが、月だけは優しかった。 月は見上げるたびに、あたしは間違っていないと、罵倒してくる声を気にしてはいけないと言ってくれた。その声に支えられて、どんな罵倒が聞こえたとしても、昔みたいに性行為でしか価値がないと言われたとしても耐えることができていた。  だが、そんな日々はまるで、浜辺に作った砂の城のごとく崩れ去っていった。  お母さんがコイビトと結婚したのだ
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加