神立(かんだち)――はじまりを告げる万雷

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 川では儀式が始まろうとしていた。  息は苦しいが、間に合ったことに少しほっとする。  麗紫は真新しい白の着物を着こみ、川に面した台座に座っている。その脇には、金が積まれていた。生贄を出した家以外から集められる、儀式のための金だ。  掟と儀式のための費用を嫌い、村から出て行く家は増えている。だからますます田畑は荒れ、ひと家族あたりの負担は増える。これを捻り出すために、俺たちがどれだけこの一年働いたと思っているのか。  夕日が傾いてきているというのに、村人が集まっている。それどころか、近隣の村の連中まで大勢来ている。暇人め、と俺は胸糞悪くなった。  麗紫の父ちゃんと母ちゃんもいたが、青い顔をして遠くで縮こまっている。気にはなるが見たくもない――のだろう。  俺は数年前に見た。集めた金のほとんどが、大巫女の婆どもと村役人の私腹に消えていることを。だからあいつらは年寄りなのにあんなに肥えているんだ。下品に笑い、話しているのを聞いたんだ。  村の連中に話したが、誰も何もしない。掟を破れば川が氾濫する。そんな迷信を盾にされ、皆逆らえない。大昔に交わした誓約書がどうたら、などと言い訳ばかりする。  ――誰のための掟だよ!  人が生きるために始まった儀式だ。それなのに、儀式のために人が死ぬ。飢える。村から出て行く。これじゃあ、あべこべだ。儀式のために生き、死ぬなんて馬鹿げてる。  ――誰もできねえなら、俺が掟をぶっ壊してやる。  そう思ったから、こうして走ってきた。あいつらがアジトを出てから、誓約書も証文も集めて燃やしてきた。おかげで遅くなったが、あれらがなければ儀式用の寄付も生贄を差し出すのも、拒否しようと思えばできる――名目上は。皆にする気があればだ。  そう言ったら、梨沙はにっこりと笑った。天女みたいな笑顔だなと思った。 「私も一緒にぶっ壊します」  天女が物騒なことをのたまった。
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