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泣き出しそうな空から降ってきたのは、女だった。
よりにもよってその女は、俺の上に落ちた。幼馴染を助けようと走り出した、これ以上ないほどの俺の雄姿は、つぶれた。それはもう、ぺっしゃんこに。
「痛ったたた……」
「そ、れはっ、俺のほうだ……!」
尻の下敷きにしている俺に気づいたのか、そいつは驚いて飛び上がった。
「すっすいません!大丈夫ですか!」
あばら骨が折れるかと思った。きしむ体を押して、俺は身を起こす。朝から神頼みはしていたが、坊主を降らしてくれとは言ってねえ。断じて言ってねえ。
そう、平謝りしているそいつは坊主のような着物を着ているのだ。乗っかられたので女だと分かったが、背の高さも年の頃も俺と同じくらいだ。綺麗な顔立ちだが、今はそれどころじゃない。
「行か、ねえと」
歯を食いしばって立ち上がり、よろめく足を叱咤した。俺の好きな女が一大事なんだ。
走り出そうとした瞬間、思い切りすっ転んだ。
「ちょっと待ってください!」
坊主女に足首をつかまれたのだ。
「てーめーえー……!」
さすがに拳を握りしめると、坊主女はまた慌てて謝った。
「すみませんすみません!……あの、ここがどこなのか教えてほしいんです」
そういえば、そもそもなんでこいつは空から降ってきたんだ。
雲が切れ始め、隙間から見える空は染まりはじめていた。それだけだ。他に何もない。鳥も飛んではいない。
「お前こそどこから来た」
問われたそいつはしばし考えたのち、空を指さしたのだった。
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