プロローグ

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プロローグ

 黒い毛は太陽の光を受けてつやつや輝いて見えた。  ジバはしなやかな身のこなしでブロック塀の上に飛び上がり、その上をなんのためらいもなく歩いていく。  いつもの散歩道。毎日行う習慣だ。朝と夕方に自分のなわばりに変わりはないか見て回るのだ。  やがてブロック塀が途切れ、ジバは地面にとびおりた。ここから先は公園だ。ベンチに腰掛けたお年寄りが、袋から出した米粒をまいている。そこにスズメやハトが群がってついばんでいたが、ジバの姿が目に入るといっせいに飛び立った。お年寄りが恨めしげにジバのことを見ている。  ワタシは悪くない。空腹の時ならいざ知らず、今は満腹なのだ。そんなときにスズメやハトを追いかける気にもならないのだから、彼らだって逃げることもないのだ。ワタシが悪いのではなく、勝手に飛び立った鳥たちが悪いのだ。ま、ワタシの腹具合など鳥たちに知る由もないのだけど。そんなことを思いながら、ジバはベンチの前を通り過ぎる。  いくつかの遊具の間を通り抜けてから、ジバは公園を出た。道路のわきに黒い車が停まっていた。エンジンがかかったままだ。  排気ガスのにおいに顔をゆがめながら、ジバは先へと進む。  そのときジバは気づいていなかった。車のドアがそっと開き、男が降りてきたことに。そして、こそこそとジバのあとをつけてくることに。  ジバはそのまま人気のない路地に入った。しばらく行くと、突然うしろからばたばたという足音が聞こえた。振り返ろうとしたその瞬間、むんずと誰かに首根っこをつかまれた。暴れようとしたが、体に力が入らなかった。 「黒ネコ、ゲットだぜぇ」  男の声が聞こえた。  ジバはそのまま黒い車に乗せられ、どこかに連れ去られてしまった。
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