咲き遅れた薔薇の吐息

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高村光太郎さん 智恵子さん   『智恵子抄』は愛読書 いつか僕にも きっと   智恵子さんが現れるに違いない いけない いけない 静かにしているこの水に 手を触れてはいけない まして石を投げ込んではいけない この澄み切った水の中へ そんなあぶないものを 投げ込んではいけない そう思っていた 光太郎さんの   静けさを破った 智恵子さん 僕はどうやら 水の静寂を   護ることに夢中になっていた 天空の城を護ろうとしていた   孤独なロボット兵みたいに 自己を沈める水の深さを   覗き込んで 満足していた 智恵子さんは 僕の後ろから   黙って僕を見つめているんだ そのぬくもりを背中に感じてさえ   僕は涙することしかできない なぜって 僕にできることは   純愛を昇華させる蒸気になって 触れることのできない智恵子さんに   悲しいほど真っ直ぐ憧れるだけ     
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