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◯
——新宿某所
「見て、あの子可愛くない?」
「うわっ超美人じゃん。誘ってみるか」
人で賑わうこの街では昼間からスカウトやナンパは珍しくない。やることのない大学生にはいい暇つぶしになるだろう。“もしかしたら“を期待しているかもしれない。
「君かわいいねぇ。もしかしてモデルさん?」
「俺たちと遊ばない?」
街に出るときは基本的にパーカーとジーンズ。あまり目立ちたくないからだ。ファッションに興味がないのも花のない見た目の理由だろう。
「ほらあの……そうだ最近できたスイーツなんとか? 連れてってやるよ」
「スイーツキャッスルね。もちろん俺らの奢りだからさ」
三月も終わりというのに今日は少し寒い。それなのに女子高生たちは薄着でスカート丈を短くする。それで寒そうに震えている。どれもこれも興味はないが。
「おい、無視してんじゃ……」
急に肩をつかまれて引っ張られる。なんだこいつら、ずっと近くにいたのか。
彼らは私の目を見つめて固まっている。ナンパするなら気の利いた褒め言葉や女子が好きそうなものをいってみたらどうだ。見つめてるだけじゃどうにもならない。
しかし、平凡な彼らは呆気に取られている。
人からよく澄んだ瞳をしているねといわれる。それは内面的なことではなくて、実際にそういう色なのだ。父親譲りの青い目、海や空を飲み込むような青い目。そう、私はハーフなんだ。
日本人の母とイギリス人の父。小麦色の髪の毛も相まって、たまに彼らのように異物を見る目でみられることがある。それももう慣れてしまった。
「「し、失礼しましたぁぁ!!」」
失礼しました、ね。厄介事に巻き込まれなくてすんだものの、少し注目を浴びてしまった。パーカーのフードを深くかぶって足速に帰宅する。
「でさぁ、あの映画すっごく泣けてさ」
「本当に? じゃあ今度彼氏と行こうかな」
前から歩いてきた高校生が私の隣を通り過ぎていく。おそらく私と同い年だろう。別に憧れているわけではない。ただ私と住んでいる世界が違うだけ。物珍しく見ているだけだ。
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