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友美は不思議と落ち着きつつあった。
とにかく傷の手当をしなくては、と思う。
その身体を抱え、部屋の奥へ連れて行った。さっきまで氷のように冷たかった身体が今は尋常ならざる熱を帯びているのを感じる。
突然床に膝をつき、上半身を波打たせ、嘔吐した。絞るような声とともに吐き出されたものは胃液だけだった。吐くものがなく、それでもこみ上げる吐き気に彼は身をくねらせて苦しんでいた。友美は背後にひざまずき、その背中をゆっくりとさすった。
何度も咳き込み、激しく呼吸し、そして意識を失った。
友美は胃液で汚れた床をタオルで拭き、新たに持ってきたバスタオルの上に男を横たえた。濡れた服を脱がせる。重く湿ったジーンズを脱がせるのには手間取ったが、脱力しきった男は巨大な着せ替え人形のように無抵抗のまま裸にされた。
充電の切れたスマートフォンがポケットに入っていた。引き抜きタオルで雨雫を拭う。
黒のボクサーショーツにはそれほど雨が染みていないのを確かめ、そのままにする。別のタオルで全身を拭く。手や足は冷え切っていたが、首や胸、腹は激しく発熱している。敷いたバスタオルごと隣の和室まで引きずり、布団に寝かせた。
男物の衣服などなかったからタオルで裸のからだをくるみ毛布をかけた。濡れタオルで顔と手の甲をきれいに拭く。
額と腕の傷を消毒したかったが消毒液がない。とりあえずガーゼのハンカチを当てた。ジッパー付きのポリ袋と保冷剤で簡易的な氷枕をつくり、その頭の下へもぐらせ、水で濡らしたフェイスタオルを額に乗せる。
大丈夫、呼吸もしっかりしているし、頬に赤みもさしている。頬から首筋にかけて噴き出た汗を拭き取りながら、自分の手首にかかるその吐息を感じながら友美は思う。
男の服とタオルを洗濯機に放り込み、泥と雨で汚れた廊下を掃除した。
男が持っていたスマートフォンを充電する。
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