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晴れ家族
「おーい、パパとキャッチボールしないか?」
能天気な声とともに、パパが僕の部屋へ顔を出した。
僕はやれやれといった態度で振り向く。
「ねぇ、パパ。僕は今、塾の宿題で忙しいんだ。見たら分かるでしょう?」
「宿題? これは数学じゃないか。まだお前は小学生なんだ。そんなのやらなくたっていいだろう」
楽観的なパパはいつもこんな調子だ。
「そんな訳にはいかないよ。ママからちゃんとやりなさいって言われているんだ」
「バレないさ。今ママは友達の結婚式に行っているんだ。あ、でももうじき帰ってくる頃だなぁ」
チラリと時計に視線を移した時、しとしとという雨音が聞こえ始め、それはすぐに土砂降りとなった。
「あちゃー、夕立か。これじゃママのドレスが汚れてしまう。ちょっと車で迎えに行ってくるよ」
パパは「宿題頑張れよ」と言って部屋を出て行った。
数学の分からない問題を聞こうと思ったけど、まぁ後でいいか。
「お迎えに来てくれて本当助かったわ。駅に着いた途端に大雨になったんだもの」
どうやらママとパパが帰ってきたらしい。
「それはよかった。それにしてもママはよく雨に降られるなぁ」
「そうね、雨女みたい。でもあなたと今までに行ったデートでは、雨に打たれた事なんてないわよ」
「はて、そうだったかなぁ」
「あら覚えてないかしら? 縄文杉を見に屋久島に行った時だって晴れたわよ」
「思い出した。あそこはひと月に35日雨が降るって言われているのにな」
「この前家族3人で行ったキャンプだって、前日は大雨の予報だったのに晴れちゃったんだから。きっとあなたは晴れ男なのよ」
「確かにそうかもしれないな」
相変わらずニコニコと話す2人は今日も仲が良い。近所でも評判のオシドリ夫婦ってやつなのだ。
僕は「おかえり」と言って、ママに宿題を見せる。
「この問題が分かんなくて、ここから先がどうしても解けないんだ」
「あら、じゃあ後で一緒に見てみましょう」
外を見ると雨はもうほとんど止んでいるようだった。
「明日の試合は大丈夫かなぁ」
「あら、心配ないわ。晴れ男のパパが応援に行くんですもの」
明日は少年野球の大事な試合だ。
「ママもちゃんと応援してね」
「それがね、おばあちゃんがぎっくり腰になったみたいで、明日はお手伝いに行かなきゃなの」
「えー、ママにも僕の活躍見てほしかった」
「また今度ね」
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