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――カキーン
フルスイングしたバットがボールを芯で捉えた。気持ちのいい音が晴れた空に向かって響く。
翌朝、さんさんと輝く太陽が僕を奮い立たせているみたいに、午前の練習から絶好調だった。
これなら午後の試合で絶対にホームランを打てるに違いない。
パパの視線に気が付いて、僕は手を振った。
試合が始まり、早速ツーアウトのランナー満塁。絶好の逆転チャンスだ。
次は僕の打席だとウキウキしていると、雲行きが怪しくなってきた。
でも大丈夫だ。だって晴れ男のパパがいるんだもん。
僕は審判に「よろしくお願いします」と大きな声で挨拶をする。
そしてその瞬間、なぜか土砂降りに見舞われた。
グラウンドはぐちゃぐちゃで、残念ながら試合は中止になってしまった。
家に帰る頃には雨は止んでいたけど、僕の心は晴れない。
でも嘆いたってどうしようもないことは知っている。
来週は塾で数学のテストがあるので、僕は勉強に集中することにした。
計算問題の丸つけに取りかかる。
ああ、またここで間違えている。昨日ママに教えてもらったばかりなのに。
うーん、なんでこうなるんだろう……。
パパは僕に「こんな日まで偉いなぁ」と呟いて、たった今帰ってきたママを出迎える。
「ただいま。今日もツイてなかったわ。おばあちゃんの家を出た瞬間、急に土砂降りなんですもの」
「あぁ、ママお帰り。今日はパパもツイていなかったよ。まさか自分の息子がバッターボックスに入った瞬間、土砂降りになるなんて」
僕は手を止めた。
ママに教わってもよく分からなかった数学の問題が、今ようやく理解できた。
――そっか、マイナスとマイナスをかけるとプラスになるって、そういうことか。
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