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「ねえ、どうして私をここに連れ出したの? 目の前にいただけの私に」
じっと景翔を見つめた。答えを聞きたい訳じゃなかったけど。
「うわあ、見てみて。夕焼け、赤くてすっごくきれいだよ」
校舎裏から次第に染まってゆく茜色の空は、まるで夕立などなかったかのようにスッキリとした色を覗かせる。
(どうしてって、目の前で気になる人のあんな姿を見て、ほっとけないよ。けどそんなことは、さすがに言えないよな……)
「えっ?」
夕焼けに反射して映る景翔は、「なんでもない」と拗ねた横顔を見せる。
「ま、いっか。なんかスッキリした。まだ全部とはいかないけどね」
景翔は何かを言いたそうにしていたけど、それを言葉にはしなかった。
「ここ、いい場所だね。また、来てもいいかな」
「僕でよければいつでも聞くよ。雨宿りしたくなったら、ここに来ればいいさ」
「うん」
景翔の優しさに、今だけはすがりたくなった。
「私の手を引いてくれたのが景翔くんでよかった。もし陽翔くんだったら、またさっきまでの自分と同じ思いをしていたかもしれない。そんな気がするんだ」
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