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「長旅ご苦労様です。よければ、こちらをお使いください」
歳は若いようだがしっかりとした印象を与える青年は、カウンターの下から取り出したタオルを差し出す。
「あぁ。ありがとうございます」
礼を言って旅人は受け取る。帽子とローブのおかげで濡れているようなところは無かったが、好意を素直に受け取る。
宿の御主人だろうか?
青年を包む頼りに出来そうな印象を基に旅人は尋ねる。
「市場や工房はこのあたりにもありますか。私、銀細工の行商をしていまして...」
「申し訳ありません。この辺りは薬草の採取と薬の調合を行うものがほとんどでして、大きな市場や細工のための工房を持つものは...」
好印象を保ったまま青年は答える。
「いえいえ。お気になさらず。やはり、そういったところになるとユリやスズランの街の方になりますか」
以前に来たのはずいぶん前だったので、この辺りにも市場が出来ていないかと思ったが、あては外れたようだ。
(仕方ない。明日、向こうを探してみるか)
「あ。ユリであれば、知り合いに装飾品を手掛けているものがおります。よろしければ、明日向こうで用事があるもので、その際にご紹介しますが」
「助かります。ぜひご一緒させてください」
思わぬ申し出に旅人は即答する。流れ者が商いをするには色々と手の掛かることも多い。紹介を頂けるとなれば一にも二も飛びつきたいのだ。
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