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第2部 9 故郷
三日後、由美は上越新幹線の車内で、“佐伯和昌、政界復帰への青写真”という週刊誌の記事を読んだ。
記事には、大怪我による引退からの娘の死、そして、リハビリに励む和昌の現況がまとめられていた。
その中には、身内しか知らないはずの情報があり、和昌が何らかの形で情報提供をしたことが窺われた。
和昌の政界復帰に関しては、由美の方でも情報を集めていたが、厳しい状況だった。
まずは党の反対。次の総選挙で、和昌を党の公認候補として再出馬させることは、若返りを図る民貴党内部でも反対意見が多かった。
加えて、現役時代の和昌の行動も、問題視されていた。
和昌の行動指針をわかりやすく言うと、「自分が負けないにはどうするか」だ。
例えば、“川田の乱”の時、和昌は事前に川田議員から相談を受けていた。
当時、和昌は「もし『どうしても』というなら、(その時は)なんとかしてやる」と暗に協力を匂わせた。が、党の状況を確認した和昌が取った行動は、徹底的な切り崩し工作だった。
そして、その後の大沢内閣時には、無派閥の和昌がどう動くかが、党の方針を左右する程、党内での影響力は大きくなっていた。
そんな和昌の復帰には、古株の議員ほど歓迎する一方で、若手からは反対の声が大きかった。
だからこそ、党に復帰を反対されているという情報が出る前に、怪我を克服し、政界復帰も可能な状態であるとアピールすることで、支援者からの支持を得ようと考えているのではないか。
そのことは、今回の記事で、由美の存在が巧妙に隠されていたことからもわかる。和昌にとって、由美は邪魔でしかないのだろう。
そんなことを考えながら、由美は目を瞑り、これから向かう高木瑠香の地元での取材プランを整理する。
泥酔した翌朝、平井からきたメールには、富沢からの伝言として、“しばらく出社しなくていい。取材したいテーマについて、自分の足で現場をまわってこい”と書いてあった。
由美はこのメールを見てすぐ、平井に電話をかけた。
――おはようございます
――おはよう。メールは見たか?
――はい。これ本当ですよね?
――本当だ
由美は一瞬考えた。これは汚名返上のチャンスか、それとも戦力外通告か。
――何か取材したいテーマはあるか?
――高木瑠香についてです
――よし。やってみろ
あっさりと許可されたことに、由美は拍子抜けする。
――いいんですか?
――どうして?
――てっきり反対されるかと
――取材したいんだろ?
――はい
――じゃあやってこい
――ありがとうございます
そう言って電話を切ろうとした所で、――中川、と平井が呼ぶ。
――はい
――頑張れ。負けるな
平井の言葉に、由美は目を見開き、これまでの非礼を反省した。
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